2009年08月28日

外国人による外国人のための「日本のゲーム業界で働く方法」 その1

以前、知り合いのアメリカ人に「どうしてそんなに日本に来たかったの?」と尋ねたら、「子供の頃、ファミコンいっつもやってて、ずっと日本に行きたいって思ってたから」と笑っていました。半分、冗談にしろ、日本のポップ・カルチャーの影響力というのは凄いもんです。しかも、偏見のない子供の脳みそに有無を言わさず憧れを刷り込むっていうのは、考えようによってはえらい戦略だなあ、と。

今回の記事は、大変、面白く私は読みました。少し感動すらしてしまいました。

書き手のかたがたがこなれてらっしゃいますし(異文化の土地で働いているだけに、相手にものを語り、理解させるのが大変巧いかたがたばかりです)、ともすれば夢想的な話題を非常に現実的な観点から語っているのも興味深く、同時に説得力もございます。

今日から数日間は、「日本に行きたい」、「日本で働きたい」という外国人に向けて、実際に日本で働く外国人たちが語った「日本のゲーム業界で働く方法」です。全3回の予定でございます。


日本のゲーム業界で働きたい? なら、これが方法だ。

もうしょっちゅうあることなんだ。メールを開くたびに何度も何度も、この質問。真正面からこう来る。「日本のゲーム業界でどうやったら働けますか?」

はあ…、知らんよ。僕はゲーム業界で働いているわけじゃなくて、むしろゲーム業界を取材してるんだから。そういうことを僕に尋ねたいなら、そうすればいい。はい、始め!僕は拝聴はするし、メールも公表してあるからね。で、そうじゃない他の人は、これを読んでくれ。

ここ日本のゲーム業界で働いている4人の西欧人に、この「日の出ずる国」で働くことへのアドバイスを聞いてきた。彼らには、ローカライズからプログラム管理とやりとりすることまで、さまざまなスキルがある。でも、一番大事なことは、彼らは経験者だってことだ。…そうして、その経験を僕ばかりじゃなく、キミたちとも共有してくれるほど寛大だ。ホントになんて親切なんだろう。

もしキミが一度でも日本で働きたいと思ったことがあるなら、ここには珠玉の言葉がある。ゲーム制作に興味がないとしても、たぶん、そうたぶん、他の国(日本ですらなくてもいい!)に住みたいと考えているなら、似たようなものだ。ここには、旅立つキミに役立つヒントがある。

さて、始めよう。


以前は、テクモの『Team Ninja』部門に所属、板垣伴信(訳注:『デッド オア アライブ』、『Ninja Gaiden』のプロデューサー。テクモとセクハラ問題、成功報酬の未払いなどを巡って裁判。退社の際は、『Team Ninja』の主要スタッフの大量退社を引き起こした。詳細はこちらで)の副官だったAndrew Szymanski。彼は、『デッド オア アライブ』と『Ninja Gaiden』シリーズ9作の制作から管理に至るまですべてにクレジットされている。現在は、東京でゲームの制作やプロダクションに関するコンサルタントをフリーランスで行なっている。日本の開発者や発売元に、海外で成功するにはどうしたらいいのかを助言するという責任を背負ってきた、彼の6年以上の経験を話してもらった。

これが彼からのアドバイスだ。

デッド オア アライブ 4 Xbox 360 プラチナコレクション デッド オア アライブ エクストリーム2 Xbox 360 プラチナコレクション NINJA GAIDEN Σ(ニンジャ ガイデン シグマ) PLAYSTATION 3 the Best


記憶に残る人間であれ。

ゲーム開発者というのはユニークな人々だ。どんな仕事に就くにしても忘れがたい人間であることは重要なのは言うまでもないけれど、特別、この業界では大切だ。面接が先に進めば、経営陣や制作側の責任者と顔を突き合わせることになるだろう。キミは、彼らに「こいつといっしょにやりたいな」と思わせなきゃならないし、自分が訴えたいことに耳を傾けてもらわなきゃいけない。

ここ東京で大学生だった頃、僕は、日本の就職活動シーズン真っ盛りのときにテクモに応募して、会社説明会に参加した。ダークスーツの200〜300人の日本人の就職希望者の海で、僕はたった一人の青いスーツのアメリカ人だった。休憩時間に、僕は社長のところまで行って、単刀直入にこう言ったんだ。「私は日本でゲームが作りたいんです」。その後、形式ばかりの2度の面接を経て、僕は入社した。知っている限りでは、伝統的な就職活動でこの業界に就職した数少ない例(まったくないわけではない)の一人だと思う。

すべての人ができる方法ではないかもしれない。けれど、自分を目立たせるやり方は必ずある。まず服装をはっきりさせよう(もちろん、不適切な格好じゃだめだ)。話は面白く。忘れがたい人生の経験を話そう。僕の場合、今になってもまだ、いっしょに働いているチームの人たちに言われてしまうことがある。それは僕の応募書類のことだ。僕は、自分が子供の頃、頭に黒い布を巻いて、ボール紙で手裏剣を作って、忍者として家の周りを走り回っていたことを書いた。印象に残るような自分自身のことを仕事に結びつける方法を見つけるんだ。そうすれば、彼らはキミを必ず覚えていてくれるだろうから。

必要とされる人間であれ。

まだこれを十分に強調できてないね。つまり、「これはキミにしかできないんだ」ってことをわかってもらわなきゃならないってことだ。

5〜10年ほど前なら、単に日本語を話せて、ゲームに興味がありさえすれば、簡単に仕事に就けたっていう事実もあるぐらいだ。今だって言語能力は重要だし(日本語の読み書きが相当に出来ることは期待されるだろう)、開発者が望む基本的なスキルと能力を持っていることも極めて重要だ。ゲーム業界が未経験であったとしても、自分に何ができるかを、平易にわかりやすく伝える方法を探さなきゃいけない。

絵を描くのは好きかい? なら、スケッチブックのファイルや3D画像を持って行こう。開発者はいつだって良いアーティストを探している。ゲーム制作をやりたい? なら、いくつかコンセプトやゲームのアイディアを見せるか、会社の既存のゲームが「こうだったらどうだったか?」っていうシナリオを見せよう。「『ロスト・プラネットのRTS(リアル・タイム・ストラテジー)』、私バージョンです」ってな具合に。管理側の経験がある? なら、計画や予算の効率的な管理について意見を交わそう。

キミの売り物がこうしたものから多少外れていたとしても、メール通信や開発者のブログで頼りになるやつというだけでなく、チーム内でキミが育てば必要な役割を担えるってことをアピールはできるはずだ。そうして、キミに知識があり、やる気があり、言語能力があり、成長する潜在的可能性があると証明できれば、ゲーム業界の海外マーケティングとアウトソーシングの世界でひときわ目立つ候補になれるだろう。

就職したらしたで、成長しつづけ、自分が必要な人材なのだとわからせよう。他の誰にもできないことができ、自分だけの隙間分野を開拓しているのだとわかってもらえれば、キミの「必要性」は高まっていくし、それによって、チームの中での地位も責任もいっそう大きくなっていく。

柔軟であれ。

幸運にも僕は10作品を越えるA級タイトルで、十分に重要な役割を担ってきた。でも、行き詰まったり、却下されたり、キャンセルされたプロジェクトにだって関わってきた。目を見開いてこれを読んで、肝に銘じてほしい。キミにどれほどのスキルがあろうともだ、キミは初めから、数百万ドルのプロジェクトを担当する一線のデザイナーでもプロデューサーでもないんだ。

おそらく、キミの最初の仕事は、2番手か3番手のDSのタイトルだろう。そうでなければ、 XBLA(訳注:Xbox Live Arcade。Xboxのダウンロードゲーム)か PSN(訳注:Play Station Network。PS3やPSPのオンラインサービス)のゲームだ。こうした仕事を受け入れよう。小さなチームで働くことは、信じられないほどの実りとなって返ってくるから。それに、「このゲームのメカニックは全部、オレだよ」とか「このステージのバッググラウンドは全部、オレがデザインしたんだ」って言うほうが、満足度は高いはずだ。最初から大きなチームで働くとよくありがちな「敵のヒットポイント値をやったよ」とか「このステージの木は全部、オレ」なんて言うよりもね。

たぶん、この業界の人々は「真の」超A級タイトルなんかで仕事をしたことはない人がほとんどだろう。けれど、だからといって、彼らが素晴らしいゲームを作ってないとか、仕事を楽しんでやってないなんてことにはならないんだ。

チームの大きさが100人を超えるようなところで埋もれて、頭打ちになったとしても、それでもなおキミは柔軟でいなきゃいけない。

僕は、無数のアイディアを却下されてきた。ゲームまるごとのコンセプトを否定されたり、数ヶ月かかって作った制作書類が、作品のテーマが変わったっていう理由で瞬く間に消え去ったり。忘れないでほしい。ゲームはビジネスなんだ。キミはあるいは世界で最も素晴らしいアイディアとキャラクター・デザインをもってるかもしれない。けれど、市場がそれを好しとしないのならば、計画が進むことはないんだ。

キミが「最高」だと思っているもの(あるいは、キミが必ずこれだったらプレイすると決めているもの)を作ることがすべてじゃないってことだ。売れるだろうもの、実際、よく売れているものを作るって話なんだ。若いチームのスタッフが、「上はわかってない」とか「オレたちのアイディアが入ってたら、間違いなく100倍良くなったのに」ってぼやくのなんて、僕は数えきれないほど聞いてきた。経営陣とともに作品の明確な方向性を決め、ゲームの内容がその方向性と一致しているかどうか確認するのが、制作監督(あるいは、プロデューサー)の仕事なんだよ。

チームが大きくなればなるほど、個々の妥協が必要とされていく。冷静に受け止めることを学ぼう。そうすれば、ビジネスの大きな構図が見えてくるだろうから。

タフであれ。

これは簡単そうで、実行するのはむずかしい。キミは、精神的にも肉体的にも強くなって、ここ日本でのゲーム開発という仕事の厳しさに耐えねばならない。日本語には「過労死」って言葉があるぐらいだ。普通のサラリーマンだって多くが深夜近くになるまで家には帰らない。

開発チームは世界中どこでも、「試練の時」と呼ばれるものを経験する。ゲームの発売直前、チーム全員が、ゲームを仕上げ、最後に残ったバグを解決するために全力を振り絞る検査の時期だ。

とはいえ、日本人の開発者の中には、そうした試練のバカバカしさを芸術形式にまで高めることをゴールにしていたような人すらいる。明らかなのは、これはチームによっても、作品によっても違ってくるということだ。僕は以前、2つの作品で半年に及ぶ試練を経験した。その6ヶ月間は、人と遊ぶ時間もなく、自由時間もなく、愛する人たちといっしょにいる時間も限られ、そうして、連続5日間も会社で寝泊まりしたために、アパートの中がどうなっているのかすら忘れるほどの長い時間だった。

僕はこうした慣習をもちろん容認はしないけれど、…実際、できるだけこの試練を軽減することを目標にしている。こうしたことは、日本のチームに限ったことではない。人生の1つの事実としてキミが受け入れなきゃならないことなんだ。順応することを覚えよう。同僚を親友にするんだ(そうなるはずだ)。だって、テストやデバッグで、たくさんの長い夜をいっしょに過ごしてくれるのはキミの同僚だけなんだから。1ヶ月間は日々の生活(食事、仕事、睡眠)をすべて、会社のデスクでできるようにしよう。そうすれば、キミはその先へ進める。

もちろん、精神的に図太くなることも覚えよう。最初は、失敗が発覚したり、キミのアイディアやデザインが却下されると、自信を失ってしまうだろう。

けれど、これは誰しもに起こることだということを知ろう。自分だけのことだと思わないように。
日本人の開発者たちは、ほとんどの場合、チームのスタッフとは非常に厳格に線引きをしたつきあい方をする。これは彼らが親切じゃないせいではないし(彼らが親切なのはじきにわかる)、キミに辛く当たろうとしているのでもない。むしろ、これは、徒弟制度の流れで、つきあいかたを体系化しているわけで、ものを作る世界で長く続いてきた伝統の一部だ。

だから、主任デザイナーが、キミが最高だと信じるゲーム・メカニックを書き綴った書類を取り上げ、そのままゴミ箱に放り捨てたり(そう、僕は今、自分の体験について話してる)、アート・ディレクターに、キャラクターのスニーカーの靴ひもの穴の輝きが完全じゃないという理由で、100回、描き直しをさせられても、だ。こうしたことは、彼らが本当に、キミが学び、そうして結果としてより良くなっていくことを信じているからやっているんだということを理解しなきゃいけない。逆境に耐えれば、そうそう簡単には壊れない友情と仲間意識の絆で結ばれた、素晴らしい師匠を得られるかもしれないのだ。

辛抱強くあれ。

最後に。特に、忍耐だ。物事は常に、キミが望むほどさっさとは動かないということを悟らなきゃならない。この助言は、事の大小は問わない。

小さいことで言えば、キミはきっと、自分の意見がどうして思ったほどの反応を得られないのかと疑問に思うだろう。特に、キミがチームに入ったばかりだとか、プロジェクトがまだ初期段階のときだ。凄いアイディアやデザインなのに見向きもされないと、(正当な理由をもって)感じるかもしれない。

僕はすでに、チームにとって必要不可欠な人間になれということは語った。自分にしかできない隙間分野を作り、チームのメンバーの信頼と尊敬を勝ち取れと。こうしたことは、どれも時間がかかる。日本的言い回しをすると、ほとんどの日本の開発者は、「広く浅い」つきあいより「狭く深い」つきあいを好む。言い換えれば、平均的に彼らは、より少数の個人とつながろうとする。けれど、彼らがそうするとき、その関係は深く強い。

自分の職務をやり抜き、打ち込み、それが妥当だろうがどうだろうが批判を受け入れ、自分がチームと協調していることを皆に示せば、キミは、自分の意見やアイディアが最終的には、周りの人たちから一目を置かれるようになることを知るはずだ。

大きなことで言えば、キミは最初は、プロジェクトをいくつ経験しても、望んでいたほど昇進はしないかもしれないと理解しよう。日本の会社は出世が難しいことで悪名高い。チームのリーダーに、キミが上の地位にふさわしいと納得させるには、山ほどの激務と偉大な実績がいるだろう。

キミはそれでも当然、肩書きの変更も昇給もないまま、仕事の責任だけ増やされ、こうしたハードルを乗り越えていくことを学ばねばならない。まるで、海外のある会社の制作者たちを今なお妨げている「見えない壁」に打ち勝たなきゃいけないみたいに。

キミはそこで、作品に対する自分の貢献は桁外れだし、制作の過程でもっと重んじられる価値があると思うかもしれない。だというのに、次のプロジェクトが始まっても、キミはやはり似たようなポジションにいるかもしれないのだ。このことに驚いてはいけない。

ただ、これだけはわかってほしい。もしキミが選んだチームが間違っていなければ、誰かがキミの努力を静かに見守っているし、注意を払っていることだけは僕が保証しよう。チーム内で反応も得られず、役割が将来は大きなものになるという囁きもないとしても、それは確実に時間とともにやってくるのだ。そうして、そのときの気分は最高だ。なぜなら、キミはそれを真に自分の力で勝ち取ったのだから。



ご苦労なさったようです。けれど、読んでいるだけで、なぜこのかたが日本という異国で働いてこれたのかがよくわかりました。内容ももちろん、さることながら、偉そうな物言いになってしまうのですが、……このかた、斜め読みしても理解できるぐらい、素晴らしくわかりやすい文章をお書きになる。平易で要点をつかんでる。コミュニケーション能力の高そうなかたです。

ついでに、明らかにここに書かれているのは、板垣伴信のことかと思われます。厳しいかたのようですが、信頼されてますなあ…。



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長めの記事は、2日に分けたほうがいいですかね。一回で読めたほうがいいかなと思い、こうしてますが、あまりにビロビロ長いと読む気をなくされるかたもいるかなあ、と…。


   
posted by gyanko at 21:00 | Comment(12) | TrackBack(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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