2009年10月05日

海外の反応 - 五嶋みどり、タングルウッドの奇跡 -

昨今では、諏訪内晶子庄司紗矢香等、海外で活躍する日本人バイオリニストは少なくありませんが、やはり伝説と言えば、私は五嶋みどり(海外での公式アーティスト名はMidori)を思い出します。

ベスト・オブ・五嶋みどり パガニーニ:カプリース(全24曲) フレンチ・ヴァイオリン・ソナタ集

3歳から母、五嶋節にバイオリンを習い、6歳で初めてステージでバガニーニ(訳注:18世紀のイタリア人バイオリニスト。鬼神と言われる。作曲家としても知られるが、どれも難曲として有名)の『カプリース』を演奏。8歳で、ジュリアード音楽院に送ったテープが認められ、渡米。高名なドロシー・ディレイの元で学び、11歳でズービン・メータ指揮のニューヨーク・フィルハーモニックとの共演でデビュー(Wikipedia)。(母子ふたりだけで渡米し、ごちそうがマックのハンバーガー、冬のオーバーにも困るような暮らしの中で五嶋みどりを世界的バイオリニストとして育てた記録はこちらの本に詳しいです。)

今日、最初にご紹介する動画は、アメリカの教科書にも載ったという「タングルウッドの奇跡」と呼ばれる伝説的コンサートのときの映像です。

これは、五島みどりがレナード・バーンスタイン指揮の『セレナード』で共演した際、E線を2度も切るという事故に見舞われながら、素早くバイオリンを換え、演奏を完遂したというもの。

米国Wikipediaは、このときのことを「1986年、今なお伝説的演奏として語られるタングルウッドでの出来事が起こる。驚愕の成功であった。彼女は2度もバイオリンのE線を切ったが、コンサート・マスターやアシスタント・コンサートマスターからバイオリンを借りて、演奏を完遂した。指揮者のレナード・バーンスタインは、驚愕のあまり彼女の前にひざまづいた。翌日のニューヨークタイムズの一面は「14歳の少女、タングルウッドを3台のバイオリンで征服」だった」と記述しています。

演奏の素晴らしさもさることながら、14歳とは思えぬ冷静さ、そうして当時、五嶋みどりは体の小ささのために3/4サイズのバイオリンを使用しており、借用したフルサイズのバイオリンで2度の事故を、一度も演奏を止めることなく乗り切ったことにも大変な讃辞が送られました。


↓コメントでお教えいただきました。ありがとうございます。断然、画質がきれいです。

五嶋みどり タングルウッドの奇跡



↓かなり映像が荒いです。

Violinist Midori breaks E-string twice and swaps 2 violins



この動画の人気が最も高い地域↓。
midori.gif


ちなみに、この動画の人気が最も高いユーザー層。平均年齢高いですなあ…。
性別 年齢
男性 45-54
男性 55-64
男性 35-44



■イェイ、最初のコメントだ!!!! 彼女がバイオリンを変えても、なお旋律がまったく止まってないというところが大好きだ。これは超レアな映像だよ…。Midoriはなんてクールなんだろう!!!!(+1)

■怖いぐらいだ!! この動画、何年も見てなかった。投稿してくれてありがとう!!!

■信じられない。ついにこの歴史的イベントを見れたよ。これまで、古い新聞の抜粋から読むことしかできなかったんだ。ひょっとして、バーンスタインが彼女の前にひざまずいたエンディングのところも持ってるのかな(翌日のニューヨーク・タイムズの一面に載ったところだよ)。

■2度も弦を切ったのに協奏曲を弾ききるとはね!凄いよ。

■2度もどうして切れたの?張ってた弦が悪いんじゃないかな。短時間で2度切るなんて。私がコンサート・マスターだったら、自分のバイオリンは他人には貸さないな。ストラディバリウスだろ。私はこう言う。「ここから出て行って、僕の代役のを使ってくれ」って。

■↑キミにはキミの意見があるだろうけどね。Midoriがあそこでなにをしたのかは正確にはわからないし、僕自身はこの曲を演奏したことがないから、はっきりとは言えない。だけど、E線が弱いまま演奏に入ったのなら、最初はさまざまな理由で切れたんだろう。でも、2度目は、E線がピチカートに耐えきれなかったっていう事実があるんじゃないかと思う。彼女はバイオリンを換えてはみたものの、すでにE線は切れる寸前だったか、ゆっくりと切れつつあるとこだったか。(+2)

■↑ありそうな話だ。この曲を聴いたことはなかったけど、なんというか、最初のところはいかにも弦が切れそうな感じだ。(+1)

■それでもショウは続くってわけだ!こういう場合のために緊急策はないものなのかね。

■少なくとも、こわれたのが弦で良かった。ストラディバリウスじゃなくて。

■Wow、クール。本当に彼女は落ち着いているね。

■驚愕だね…。この幼さでこれほどプロフェッショナルだとは。(+4)

■↑確かに。

■3/4サイズからフルサイズのバイオリンに換えるのは簡単なことじゃないんだよ。Midoriは神だよ。(+1)

■この動画だと彼女は私と同年齢ぐらい。でも、私は彼女ほど素晴らしく弾くことすらできないよ。コンサート・マスターの表情とか何を考えてたのかが知りたいわ。

■14歳?! それで、E線を2度切ってこれか。明らかに神に愛されてる才能だよね!パールマン(訳注:イツァーク・パールマン。イスラエル人バイオリニスト。69歳。20世紀における最も偉大なバイオリニストの一人)ぐらい人気が出てもおかしくないのになあ。(+2)

■1:17のところを見て。肩当てを引っぱり出そうとしてない?つまり、彼女、バイオリンを掴んだはいいけど、今まで(フルサイズで)弾いたことがなかったんだよ。なのに、瞬時にあれほどの完璧さで演奏した。肩当てなしで!
まあ、肩当てなしってだけでもちゃんとできそうにないってのに、彼女はそれを14歳でやったんだ。なんという衝撃。(+1)

■凄いよ……フィラデルフィアでジョシュア・ベル(訳注:米国人バイオリニスト)が「レッド・バイオリン」を演奏したときも切れたのを見たよ。…でも一度だけ。旋律は止まらなかったな。鋼の神経だね。

■彼女はパールマンと同じぐらい人気があるよ。キミ、わかってないね。

■素晴らしい!! この動画をどうやって手にいれたんだ?Midoriの『ザパテアード』をもってる? もってるなら、アップしてくれないか。あれが一番好きなんだ!!

■なんてこと。…彼女に追いつくには永遠の時間がかかるわ。私なんて、鈴木式(訳注:海外でも普及が進むバイオリンの才能教育。楽譜を読めなくても弾けるのが利点とも欠点とも言われる)の教本をやっと終わったばっかり。(+1)

■↑自分と他のバイオリニストを比べないほうが、恵みは大きいものだよ。特に追いつこうなんて。(+3)

■↑ええ。……わかってる。本当に有名なバイオリニストになることが私の夢なの。Midoriは私の模範の1つ。(+3)

■14歳にしては、彼女は恐ろしく小さく見えるね。10歳ぐらいにしか見えない。(+6)

■学生時代、このコンサートに行ったよ。かつて見た中で最も素晴らしいものの1つだった。彼女の後、チャイコフスキー第6をやったんだけど、観客はもう気が狂ったみたいになってたね。(+7)

■後年のドロシー・ディレイが考えた宣伝だったって言う人もいるけど、誰かそう思う人いる?

■↑くだらない。(+1)

■↑誰が言ってるの?(+1)

■ニューヨーク・タイムズの見出しが「14歳の少女、タングルウッドを3台のバイオリンで征服」だったよ。凄過ぎる。これを見れて光栄に思うよ。(+8)

■パガニーニみたいだな。彼は曲の途中で2度切ったが、残りの2弦だけで演奏しきった。でも、この少女はこの年齢を考えると驚嘆すべきことだよ。(+7)

■どっちかって言えば、彼女のやり方が間違ってるってことだよ。弦は演奏中にそうそう切れるもんじゃない。…特に、ガット弦じゃないんなら。

■↑そうとは限らない。ときどき、特にコンサートでは、照明や空調の具合で弦が切れることがある。特に、特定の周波数をもってる人とかね。(+3)

■弦が切れるっていうのはね、それだけ音楽に没頭してるって証明なんだよ。(+1)

■名演奏家と言われる人たちが、あ、普通の人なんだって思えるようなのってすごく好き。(+2)

■Wow、冷静だ。こんな幼いのに。ブラボー!(+2)

■光栄にも、ドイツで個人的にMidoriに会ったことがある。とても感じの良い人だったよ!誰にでも気遣うし、…コンサートの後、本当にたくさんの人と話してくれたんだ。ただステキの一言!(+1)

■↑私、バイオリンケースにサインしてもらったんだよ!(+1)

■これ、テープでもってるよ、うれしいことに!!!! 誕生日おめでとう、Midori(10月25日)。(+7)

■私の場合、泣くだけだったよ。6歳のときだった。演奏途中で弓を落としたんだ。今でも悪夢。ハハ。(+4)

■面白い。でも、本能が言うね。お前の栄誉あるストラディバリウスを子供の手に渡すなって。

■↑Midoriが使ってるデル・ジェス(訳注:グァルネリ・デル・ジェス “エクス・フーベルマン”。1734年製)はな、ストラディバリウスより稀少で価値があるんだよ。

■↑今はそうだけど、14の頃はちがうだろ。17歳ぐらいでデル・ジェスだ。(+1)

■↑何を言ってるのかわかってないのか。オーケストラでは、従わねばならない慣習というものがある。その1つに、ソリストが弦を切った場合、コンサートマスターが瞬時に自分のバイオリンを提供しねばならないというのがある。

ついでに、ストラディバリウスにはいろいろある。すべてが良い音ってわけじゃないんだよ。最高のストラディバリウスの中の、これまた最高のものだけが才能ある演奏家によって奏でられる。言えるのは、コンサート・マスターのストラディバリウスは、そうした類いのものではなかったろうってこと。それと、一体、どこの世界にMidoriにバイオリンを貸したがらないやつがいるっていうんだ?どこの製造者だって貸すってのに。(+2)

■↑心配しないでくれ。わかってるよ。彼女が子供だから、言ってみただけのジョークだ。自分のバイオリンをそのへんの子供に貸すってレベルの話じゃないのはわかってるさ。信じられない才能あるミュージシャンこそが弾く価値のあるものなんだから。

■なんてこと!! すばらしい!! Midori、最高だ!(+3)

■Midori、大好きだ!!!!!(+2)

■ああ……僕、南カリフォルニア大学で写真を撮るために友達に呼ばれてたんだよね。で、彼女の写真を撮ったんだ。でも、彼女がどんな人なのかそのときは本当に知らなかったんだ!(+2)

■Midoriは大きくなって伝説のバイオリニスト、五嶋みどりになった。(+2)

■コンサートマスターのバイオリンの修理代ってどのぐらいなんだろうね。…2回もE線を切ったってのもおかしな話だよ!でも、Midoriはそれでも素晴らしかった。…はあ、まさに音楽界の神童だ…。

■↑なんてことないよ。ただの弦だもん。ゲースの中に余分の弦がいっぱいはいってるさ。

■↑あの弦はめちゃめちゃ高いんだよ。銀と金からできてるんだから。マジで。調べてみろ。

■↑E線は金メッキの鋼。それ以外はただの鋼。60ドル以上はしないよ。

■Midoriは良いよね。でも、もっと経験豊かな良いバイオリニストはいっぱいいるさ。(-3)

■↑14歳の子供以上に経験のあるバイオリニストはそりゃいっぱいいるだろうね。これほど浅はかなコメントをYoutubeで読んだことがないよ。(+9)

■五嶋みどりはミュージシャンであり学者だ。音楽家とは常に他の音楽家と比較されるものだ。
彼女は歴史上最高のバイオリニストではないかもしれないが、彼女は我々が今、手に入れられる最高なんだ。生きているものと死んだものを比較するのはフェアじゃない。

後年のバーンスタインが彼女を愛してたという事実は、彼自身の発言で知られてる。どれほど金持ちだろうと、ベルリン・フィルに招待されることはできないんだぞ。彼女はベルリン・フィルとしょっちゅう共演してるんだ。それに、彼女は南カリフォルニア大の弦楽器の教授だ。しかも、金に夢中な俗人なんかじゃない。人間として素晴らしい人。これだけでも僕には十分なんだ。(+3)

■2回も切った?なんてこった。どれだけ安い弦だ?(-3)

■↑まあな。キミがよくストラディバリウスに張るたぐいのやつだ。(+10)

■↑安い弦を使って2ドル節約しようと思うからこうなる。(-6)

■↑Midoriは力強さですごく有名なんだよ。たぶんちょっと力を入れ過ぎたんだろ、それで弾けた。(+2)

■バイオリンをわかってれば、ストラディバリウスが200万ドルするって知ってるはずだ。80ドルの弦なんて比べる対象じゃない。

■彼女がフルサイズのバイオリンで曲を弾き終えたことに感動したよ。いつもは3/4だってのに。……1インチ程度の長さの違いだけど、慣れるのにはちょっと時間がかかる。(+8)

■クレイジー!前に話を聞いたことはあったけど、動画で見たのは初めてだよ。信じられない!(+3)

■こんな話は聞いたことないよ。…最初に借りたバイオリンの弦をまた切ったときのMidori、ちょっと戸惑ったろうね。…「ごめんなさい。あなたのE線も切ってしまいました…」

■ここのほとんどの人たちが、この動画のポイントが、弦を切ったとかそんなことじゃないんだってことをわかってないのがおかしいよ。弦を切っても、演奏を続けたこと。楽器を換えながらも、旋律を一度も止めることなく奏でつづけ、完全に演奏ぴったりで立て直したことだよ。14歳の子供にできることじゃない。(+13)

■↑弦を切るなんて、しょっちゅうあることだもんね。だから、ケースにいつも余分に弦を入れておくんだし。彼女はすでに十分な練習をしてたんだろうな。だから、平静を保てた。2、3週間前に彼女のメンデルスゾーンを聴きに行ったんだけど、素晴らしかったよ。

■↑そのうえに、新しいバイオリンに慣れる必要もあった。一度も弾いたことがない楽器の位置の高さ。それでも弾ききった。これも並大抵のことじゃないよ。…バイオリンをやってる人なら誰でもわかるはず。(+4)

■なんて、凄いんだろう。私だったら、取り乱すわ。ショックを受けて、パニックになって、ステージから走り出るかも。(+5)

■シンシナティ・シンフォニー・オーケストラで彼女の演奏を聴く機会があったんだけど、彼女には誰も敵わないよ!彼女のCDは絶対に人を飽きさせない。シンシナティにまた来てくれたら、必ず行くよ!(+1)

■プロフェッショナル、かつ冷静。大好きだ。(+4)

■Wow、伝説だな!! アップしてくれてありがとう!(+4)



コメントは、バイオリン経験者によると思しきものがかなり目立ちました。
2度のアクシデントを乗り越えて、完璧に演奏しきったことが何度も絶賛されていましたが、これはもちろん今もなお、五嶋みどりがバイオリニストとして世界的名声を勝ち得ているからこその話。現在の素晴らしさがなければ、付録の伝説にも意味はございません。

そんなわけで、こちらもご紹介。タングルウッドから約10年後。ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラとの1995年の共演、チャイコフスキー・バイオリン協奏曲↓。

MIdori Goto plays Tchaikovsky 1stMovement part1



10代の鬼気迫る演奏も素晴らしいですが、大人になられてからの演奏も素晴らしいなあと思います。内省的すぎるとおっしゃるかたもおられますが、私は高潔で好きです。
母であり、師である五嶋節との濃密な関係から、精神のバランスを崩して苦しまれたこと、依存ではない自らの世界を作るために早い時期からボランティア活動に打ち込まれたことなど、内的成長過程の影響も大きいのだろうなあと感じます。

(かなり前に、…ピアニストの中村紘子の『チャイコフスキー・コンクール』だったと思うのですが、こうしたコンクールに出る音楽家の親子関係はどれも異様であるといったような言質のことを言っていた記憶があります。)


五嶋みどりは、ジュリアード音楽院の後、ニューヨーク大学の心理学科を卒業。また、「みどり教育財団」を立ち上げ、教育環境が行き届かない都市部の公立校に通う子供たちを対象に、音楽の楽しさを提供するボランティア活動も行なってらっしゃいます。

現在は、国際的な演奏活動の他、南カリフォルニア大学のヤッシャ・ハイフェッツ講座の教授職(ハイフェッツが南カリフォルニア大学で教えていたことから、75年に創設)にあり、全米弦楽器教師協会の理事。生徒を叱るときは、大声は出さない代わりにカスタネットをカチンッと鳴らすそうで、……威厳ありそうです。

2001年には傑出した音楽家のみに贈られるエイヴリー・フィッシャー賞を受賞。この賞金でまた、社会活動のための基金を設立なさっています。



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<補記>New York Timesに掲載された五嶋みどりの約20年前の長文記事をご紹介したいのですが、少なく見積もっても5回連載にはなるうえ、興味があるかたは多くないかもしれないなあという危惧もあり、……週1連載にしようかと考えています。

   
posted by gyanko at 21:00 | Comment(41) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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