2010年03月26日

海外ブログ - ゲームの翻訳者になる方法 -

本日の記事は、Daniel Moralesさんのブログ記事
転載先がこちらです。


ゲーム翻訳の仕事をするには。

翻訳者に憧れる人たちから、「どんな仕事をしているのか」だとか「翻訳業界への入り方」だとかを僕はよく訊かれる。なので、一回だけ、こうした質問にQ&Aスタイルで答えてみようと思う。興味がわいたことがあれば、遠慮なくコメント欄に質問を書き込んでほしい。

Q:正確なところは、なんていう職業なの?
A:東京の翻訳会社のプロジェクト・マネージャーだよ。

Q:プロジェクト・マネージャーってなに?
A:フリーの翻訳者たちをうまくまとめて、大きな翻訳プロジェクトを完遂するのが仕事。

クライアントから翻訳業務を受けると、僕の事務所の日本人のコーディネイターたちといっしょに納品日を決める。それから、フリーの翻訳者と連絡をとって、スケジュールが合うようだったら、元原稿を送る。

フリーの翻訳者たちが仕事を終えたら、元原稿と翻訳をよく見比べて、必要ならば訂正したり、修正したりする。質問がある場合は、クライアントのために日本語でコメントをつけておく。
その後、日本人コーディネイターが僕がつけたコメントを確認したうえで、最終チェックをして、クライアントへ提出する。

プロジェクト・マネージャーの仕事については、このブログに詳しいよ。

Q:待って待って。あなたってゲームの翻訳者じゃないの?よくゲームの話してるよね?

A:まあ、そういう感じではあるけど、……実際はちがうよ。
まず、僕が何者かと言われたら、ゲームのプロジェクト・マネージャー(上記参照)。クライアントにはゲーム会社が何社かあるとはいえ、彼らから送られてくる原稿は多岐にわたるからね。実際にゲームに関係した原稿もあるし、財務関係の書類や、企画案、仕事上のメール、ゲームの台詞、ゲームの取扱説明書、iPhoneのアプリ、その他いろいろなんだよ。ゲーム業界以外のクライアントだっているしね。

Q:ってことは、実際に自分では翻訳はしないの?

A:ほとんどしないね。小さいプロジェクトだったり、スケジュールが詰まってる場合は、社内で翻訳をするときもあるけど、納品の前に、別の英語のネイティブに完成原稿をチェックしてもらうことになる。

Q:どのぐらいの量の仕事を毎日こなしてるの?

A:1日5000字の日本語をチェックできれば理想(英語だと2500ワードぐらい)。でも、一定しないよね。5000文字よりかなり多くやることもしょっちゅう。去年、大きなプロジェクトに関わっていたときは、1日1万文字以上チェックしたりしてたね(残業のときは、数時間アシスタントに手伝ってもらってた)。

Q:翻訳者の人たちは毎日どのぐらいの量をこなしてるの?

A:これは本当に、元原稿やフォーマットのタイプ、個々の翻訳者によるんだよね。でも、日本語で2500文字〜5000文字ってとこじゃないかな。3500〜4000文字がたぶん平均的な量。

Q:どうやって、翻訳の仕事についたの?

A:Japan Timesの広告に応募したんだ。すごくラッキーだった。

Q:翻訳の仕事につくために最も大事な準備はなんだと考えてる?

A:読むこと。プロジェクト・マネージャーにしろ、フリーの翻訳者にしろ、どんな種類であれ、翻訳の仕事に就きたいのであれば、大量の日本語を読む忍耐と経験がいるね。辞書なしで原稿のおおよそを理解できるようにならないとだめだから。

読む力を育てるのに最高なのは、長時間読むことなんだ。新聞、小説、雑誌、ブログ、サイト、興味のあるものならなんでもいい。1時間、2時間、半日、一日中、読む訓練をする。新しい単語を調べたら、ノートに書き留めておく。これは、いまだにやってるよ。

Q:え、辞書、使わないの?

A:使わないね。必要な場合もあるけど、すべての言葉を調べる時間なんてないから。ぜんぶじゃなくても、一つおきに言葉を調べてたら時間が足りない。

Q:一日中、読む練習を本当にしてたの?

A:マジ、やってたよ。2004年の夏は、毎日図書館に行って、日本語で『海辺のカフカ』を読んでた。朝の9時から夕方の4時まで、ランチに1時間休むだけ。小説の上巻を読み終わるのに一月かかったけど、素晴らしい練習になった。残念ながら、本は良くなかったけど。


Q:翻訳の仕事に就く前にこういう準備をしておきたかったなあって思うことなにかありますか?

A:日本語でゲームをもっとプレイしておけばよかったなあって思うな。

同僚の一人は日系カナダ人で、カナダで育ってるんだ。両親とは日本語で話してたけど、日本語への慣れはかなりの部分、ゲームだったって。彼は歩くゲーム用語辞典なんだよね。あらゆるゲームをプレイしてるってわけじゃないけど、ゲームで使われる言葉や、それがどんな意味なのかってことを熟知してる。

英語でゲームをプレイすれば、専門用語やスタイルに(それと、ゲームそのものにも)詳しくなれるだろうけど、日本語でプレイすると日本語がわかるようになるってこと。

Q:プロジェクト・マネージャーの仕事にはどうやればつけるの?

A:わかんない。インターネットで会社を探して、履歴書にカバーレターを添えて送ってみるといいよ。あと、Google Group for Japanese translationに参加してみて。求人が出ることがある。僕に言えるのはこのぐらい。

Q:フリーの翻訳者になるにはどうすれば?

A:これもうまい答えがないなあ。参考までに、僕の会社でどうやってフリーの翻訳者を雇うかを話すよ。

僕の会社は常に募集をしてる。履歴書が送られてきたら、見込みのありそうな人にトライアルを送るんだ。トライアルの出来がよければ、社の翻訳者のリストに加える。でも、常連の仲間入りをするためには、かなり能力が上じゃないとだめだよ。

だから、答えは、履歴書を添付したメールをできるだけいろんな翻訳会社に送ること。会社のプロジェクト・マネージャーと連絡をとって、翻訳者リストに加えてもらう。連絡は絶やさないようにしなきゃいけないけど、うざがられない程度にね。それと、自分がどれほど良い翻訳者であっても、「できますよ」みたいにぶらないこと。

Q:良い翻訳者として、他にこうすべきってことは?

A:メールには迅速に返信する。プロジェクト・マネージャーが「仕事を請けられるかどうか」尋ねてきたときは、特に。素早い回答で、愛される人になれるから。

それから、金曜の午後の所在をプロジェクト・マネージャーに知らせておくこと。クライアントは金曜日にプロジェクトを送ってくることが多くて、休み前に慌てて翻訳者を探さなきゃならなくなるんだよ。

米国で僕がフリーで仕事をしていたら、金曜日の朝早くに起きて、メールをチェックする努力をするかも(訳注:日本の金曜の夕方に合わせて)。

Q:ちょっと待ってよ。フリーって土日も仕事するの?

A:もちろん、する。プロジェクト・マネージャーは、フリーの翻訳者たちが土日も仕事をして、プロジェクトをスピードアップしてくれることを当てにしてる。
土日は営業日ではないから、納品までの日数には含まれてない。だから、そうしてくれれば、時間を稼げるし、クライアントにより早く納品することができるだろ。

僕が会った、あるフリーの翻訳者が言ってたのは、「きた仕事はなんでもやれ」。フリーは自分の時計で動いてる。翻訳をしてない時間は、金を稼ぐチャンスを捨ててるのと同じ。
月々の定収入がないってことが、こういう強いモチベーションにつながってるんだね。

Q:翻訳の過程で最も重要な部分は何だと考えてますか?

A:校正。日本語の理解っていうのは、実際には仕事の3分の1程度でしかないんだ。いや、たぶん、それ以下かな。残りの仕事は、日本語を自然な英語で表現することなんだ。
どんなに日本語が上手くても、まともな英語の文章を書けて、かなりの幅の表現を身につけていない限り、翻訳者の仕事は見つからないよ。

校正が大事と強調したのは、日本語(の原稿)とは切り離して、英語の原稿を見るってことなんだ。
翻訳された英語を見たときに、こう自問するんだ。これって意味が通ってる?もっとわかりやすくできない?もっと自然にならない?能動態にできる受動態の文章はない?これを読んだときの、みんなの印象はどうだろう?ってね。

Q:良い翻訳者の話を教えてください。

A:僕が関わった中で最高の翻訳者は、ゲームの翻訳をやったゲーム好きの人。彼は、出てるゲームを手当たり次第、ほぼぜんぶプレイしてるような人だった。プレイしてないゲームがあるとなると、嬉々としてリサーチして、どんなゲームか調べ上げる。暇な時間があると、ゲームのファンサブまでやってたぐらい。

去年の夏、メジャーなゲームをコーディネートしたんだ。クライアントが、膨大な量の主原稿を送ってきて、こりゃ、10万文字はあるなあって思ったよ。先方はできるだけ早い納品を望んでたから、僕たちは原稿を2人の翻訳者に分けた。一つは台詞、もう一つはト書き。ト書きっていうのは、台詞の舞台を説明する文章ね。

前述の翻訳者に僕が送ったのはト書きのほう。彼はもともとそのゲーム・シリーズが大好きだった。それで、台詞にも目を通して、前作の台本から参照すべき部分をすべて抜き出してきてくれたんだよ。

僕は、彼のノートを台詞の翻訳者に転送した。僕も、台詞の翻訳者も大助かり。時間も節約できたし、ゲームが正確に出来上がるだろうって確約もついたからね。この翻訳者のことは本当にすごく尊敬してる。

Q:悪い翻訳者の話を教えてください。

A:去年の春あたり、ゲーム企画の小さい仕事があった。3000〜4000文字ぐらい。新人に送るには手ごろなボリュームだったから、最近、トライアルに合格したやつに送ってみた。
でも、送り返されたパワーポイントのファイルを見たら、日本語の、(てん)と「」(かっこ)が残ってたんだ(全角のテキスト。完全に削除する手間隙を惜しんだんだな、怠け者め)。明らかに校正の時間もとってないし、翻訳文を熟考してもいない。結局、僕がぜんぶ書き直すことになった。

余談だけど、明らかに日本語を理解してない部分もいくつかあったよ。もしわからない日本語があったら、プロジェクト・マネージャーにメモをつけるものなんだ。会社側で修正はできるけど、不確かなところにはマークをつけておいてくれると助かるんだよね。僕の会社のトップの翻訳者だってこれをやる。恥ずかしいことじゃないんだよ。あれば、こういう意味にもとれるっていう他の訳文をメモの中につけてくれるとさらに助かる。

この仕事は締め切りぎりぎりでなんとか仕上げた。グッド・ニュースは、この企画が取り上げられて、製作されたゲームのほうの翻訳の仕事もゲットできたことだな。
この翻訳者には、僕の事務所の誰も仕事を出さなくなったけど。


この二人の翻訳者の話の教訓はこう。与えられたチャンスを生かせ。打席に立つチャンスがめぐってきたら、ホームランを打てってこと。相手に、自分がちゃんと調べていて、自分の英語を鍛錬してるってことを見せ付けないと。
ゲームの翻訳のときは、日本文から離れることだって怖がっちゃいけない。それだって、翻訳ではないけど、ローカライズっていうやつなんだから。

それから、ゲームの翻訳は薦めないって僕が前に言ったことも忘れないでね(訳注:こちらの記事。内容は、ゲームの翻訳は専門用語が多いうえに、ゲーム自体が文学と技術文書のはざまにあるため、創造力が必要で時間がかかる。おうおうにして、ひどい日本語で書かれた文を読んで、それを意味のあるものにしなきゃいけないというもの)。特許関係や経済モノの翻訳を勉強したほうがいいよ。もっと楽だし、お金も稼げるから。●



土日なしですか。プロの世界は厳しいですなあ…。


個人的には、パワーポイントファイルの削り残し……。あーと声が出そうなりました。フォーマットが同じだからと、以前のファイルに上書きして、別ファイルを作るときとか、こんな感じのことがございます。
…(1)〜(5)の手順に従って、実施してくださいの。「の、…ってなに」みたいな。



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タグ:海外ブログ
posted by gyanko at 18:16 | Comment(31) | TrackBack(0) | ゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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