この記事は、日本の闇社会を描いた『Tokyo Vice: An American Reporter on the Police Beat in Japan

ヤクザの政治学:Jake Adelstein Q&A パート2
『Tokyo Vice』の著者、Jake AdelsteinへのQ&Aシリーズの第2回は、ヤクザに関する基礎的な質問に答えてもらうことにした。なぜ人はヤクザになるのか。ヤクザはどのように動いているのか。日本のメインストリームの文化にどれだけの影響力があるのか。
これを読めば、なぜ自発的に自分たちの子どもをヤクザのところへ送り込む親たちがいるのか、無害に思えるITの仕事によってどんなふうに人が犯罪の人生へと巻き込まれてしまうのかがわかるだろう。
パート1では、日本で犯罪の鼓動をリポートしているAdelstein自身のもっと私的な体験を読むことができる。こちら。
人はなぜヤクザになるんでしょう?
ヤクザは通常、日本社会のはみ出し者です。ヤクザという言葉自体が、賭け事での負け手札、8、9、3(ヤクザ)から来ていて、これは最悪の手札なんですね。そこから行くと、彼らが自身をヤクザと呼ぶのは、自らを負け犬と称していることになり、これは大変に自己卑下をしている用語だということになります。
西日本では、今なお部落差別がたくさん残っています。ある地域の出身者を劣っていて、ダーティで、不浄であると考える人たちがいるということです。こうした差別のせいで、韓国系日本人のヤクザもたくさんいますね。よくはなってきていますが、過去には、韓国系日本人が選べる仕事といえば、パチンコ、焼肉店、セックス・クラブ、それかヤクザだったんです。
ヤクザの中には、基本的に非常に小さなホーム・セキュリティの仕事を営んでいるだけの普通の人たちもいます。近隣のバーやクラブからお金を集めて、その代わりにサービスを提供する。手に負えない客がいれば、警察を呼ばずとも彼らが追い出してくれますし、ツケを払わない人がいれば、彼らが家まで行って金を払うように丁重に頼んでくれるわけです。
ヤクザは、破綻した家庭で育った人たちなんでしょうか?
そうとは限りませんね。彼らの多くは裕福な家庭で育っています。…警察官や公務員の息子のようなね。僕のボディガードであり、元ヤクザの親分だった望月さんの祖父は警察官ですし、父親はずっと行政機関で働いていました。
両親が子どもの薬物使用を心配して、子どもを地元のヤクザだとか、それに近い人のところに連れて行ったりする場合もあったんですよ。彼らは子どもたちに、体でわからせて薬と手を切らせ、一人前の男にするんです。彼らがそういうことをするから、子どもたちはその後、ヤクザになっていったわけです。
でも、それは確実に、両親が望んでいたことではなかったと思いますが。
そうですが、少なくとも彼らの子どもたちは薬に手を染めてはいない、そうでしょう?仕事もある。実際、普通の人たちの多くが、問題を解決するためにヤクザのところへ行くんです。日本では、民事訴訟は終わるまでに永遠といっていい時間がかかる。そのうえ、裁判に勝ったときですら、誰もそれを強制できない。
…あなたから金を借りている男がいて、支払いをしようとしない。警察は、その男の資産の差し押さえなんかやってくれやしません。誰かに金を貸していたり、民事的な争いごとになっているときは、ヤクザが、あなたを不当に扱った人物から金を取り返し、半分を取ります。あなたに残るのは半分ですが、手っ取り早い。
ヤクザに関して、私たちがなにか誤解していることってありますか?
望月さんは、子どもに対して素晴らしい父親です。信じられないほど忍耐強く、子どもに決して声を荒げません。ヤクザの中には、子どもがヤクザにならない人たちもいます。中には、チャリティ活動を行い、児童養護施設などに寄付をする人たちもいる。稀ではあるんですが、こういうことがいつも僕には驚きです。
僕が驚いたことは他に、休日に家でくつろぐときは、彼らがミッキーマウスのTシャツにスエットパンツをはいてることですかね。僕にしたら、ワオですよ。家でそんな格好をしてるなんて想像もしませんでしたから。
赤ちゃんプレイが大好きなヤクザの親分も知ってますよ。赤ちゃんみたいにおむつをつけて、女性のおっぱいを吸うんです。強面の男が楽しみでこんなことをするのかって思いましたね。
望月さんの話を聞いていると、彼は完全にまともな人だと思えます。どうして彼はヤクザになったんですか?
興奮とスリル、それから女たちとの約束。彼は、ソープランドという日本の合法売春宿に巨額の借金がありました。払えなくなるまで、ツケをためてたんですよ。金の工面をしているときに、ソープランドのオーナーのヤクザが「お前、ここで働けばどうだ、金を返せるぞ」ときたんです。
今、いろんなことが起こってます。大学を卒業して、立ち上げたばかりのITの会社で働いてみたら、そこはヤクザの資金源だったとかね。
ヤクザはこうです。こいつは出来るな。金を稼ぐ。オレたちのところで使えるかもしれん。
そうなると、彼らはあなたにこう言ってくるわけです。メンバーにならないか?企業舎弟(訳注:暴力団の構成員や暴力団周辺者(準構成員)が、資金獲得(シノギ)のために経営する企業・及びその役員や従業員(Wikipedia))にしてやるよ。事務所の掃除を2年もやったり、電話に出たりする必要はないぞ。終身雇用だしな!
ヤクザの評判を知ってるわけですから、大概の人は、断るのも怖くてためらってしまいます。大きなトンネル会社をどう動かすかをわかってる人となれば、手を引かせてもらうのは、まあ、難しいでしょうね。
ヤクザは成り行き任せで人を殺したりするのですか?
伝統的なヤクザの価値観は、katagi ni meiwaku wo kakenai(カタギに迷惑をかけない)。普通の市民に迷惑をかけてはならないんです。ヤクザのところで、賭け事をしたり、薬やセックスをやったりはできます。それがヤクザのビジネスですから。でも、一般人のことはほっておくんですよ。強盗、泥棒、引ったくりはやりませんし、強姦もしない。
でも、これはもう今は当てはまりません。今はなんでも金なんです。実力社会の伝統的なシステムを支えていた考え方がもうなくなっています。力へ通じる道だって金で買える。
かつての古典的なヤクザの道は、底辺からのスタートだった。それがどんな仕事であれね。高利貸し、売春、薬物売買、恐喝、…ヤクザのスタンダードなものならなんであれ。
最終的には、ヤクザの抗争になる。対立する組のメンバーを撃ち殺し、刑務所へ行く。10年で出所したあかつきには、前より良い給料で肩書きも良いわけです。
ですが、ヤクザ抗争が下火になり、組織は、株価操作だとか、トンネル会社となる上場企業の経営といった金融犯罪へ動いていて、名誉より資金に価値がおかれてきてるんです。かつては、ヤクザの行動規範に則って生きることには、褒賞金が支払われたものだった。でも、今は誰もそんなものを気にしていません。
現在日本のビジネスにヤクザはどう関わっているのでしょう?
金融市場では、上場企業の約20%がヤクザとかなり関係していると言ってもいいと私は考えています。街で100袋の薬を売るより、100万株を売買させたほうがたくさん金が稼げますからね。
政治との関係は?
自民党はヤクザの金で設立されました。元首相の小泉の祖父は、稲川会のメンバーで、手首までの全身に刺青を入れてますよ。90年代に書かれた雑誌記事によれば、現・金融・郵政担当相の亀井静香は、ヤクザの仕手筋から40万ドルを受け取っていますし、高利貸しの帝王から献金を受けているのも確かです。
ポップ・カルチャーではどうでしょう?
娯楽産業でヤクザが運営している部分は大きいですね。バカな警官が、2007年に後藤組に関する警視庁のファイルをすべてリークしてしまったことがあります。バーニング・プロダクションという、日本で最も力のあるプロダクションの1つが、組織犯罪のトンネル会社として挙げられていたんです。
まあ、これは日本のメディアはどこも書かないでしょうけど。だって、バーニングのスターたちと関われなくなってしまいますから。マフィアがすべてに大きな力をもっていた、50年代のハリウッドのようなものですね。
変わっていくと思いますか?日本はヤクザのいない社会になるんでしょうか。
そのためには、日本に必要なものがいくつかあります。犯罪共謀に関する法律を作らざるをえないでしょう。これを作れば、彼らの下の人間が犯した犯罪でトップの人間を起訴できます。司法取引もやらざるをえませんね。これで、下の人間が上の人間を密告できるようになる。
それから、証人を保護するプログラムです。密告者が刑務所から出たとたんに殺されたりしないように。通信傍受に関する法律も必要です。盗聴できるように。通信傍受に関する法律は今非常に厳しくて、ほとんど行われていないんです。
こうしたものがすべて整えば、日本はヤクザを排除できるかもしれません。まあ、地下にもぐるでしょうけれど、二度とこうした力はもてなくなるんじゃないでしょうか。
今、ヤクザが力をもっている理由の1つには、彼らが隠し立てをしていないという点ですね。山口組の本部はGoogleマップで見れますよ。稲川会の事務所はリッツカールトンの真向かいです。毎年、警察庁は、名前と住所入りで22の組織犯罪のリストを発表しています。彼らが誰なのか、どこにいるのかは謎なんかではありません。
変化を妨げているものは何なのでしょう?
政治家です。犯罪共謀法案を彼らは成立させたくない。脛にキズをもたない政治家はいないと僕は考えています。政治家が組織犯罪を槍玉に上げはじめたら、…長崎市長のように殺されることはないにしても、その政治家の評判をつぶしにかかってくるでしょうから。
こういうこともあります。日本人はどこかでヤクザが好きです。憧れを感じている。ヤクザに関する映画もあれば、マンガもある、ファン雑誌もある。……ヤクザは文化の一部なんです。ヤクザとは、伝統的価値観を奨励している人たちなんです。
日本の街での犯罪率が低い理由の1つには、ヤクザがとてもいい用心棒になってるということがあります。ヤクザが商売をやったり、保護料をもらっている地区周辺では、襲われて金を奪われる人を見ることはないでしょう。ヤクザにすれば、その地区にきてお金を使うのが怖いなんて思ってもらいたくないですからね。
ヤクザは第二の警官部隊であり、その意味では、日本社会で価値のある役割を果たしているわけです。
これから数ヶ月にわたって、Jake Adelsteinとのコラボで、当サイト独占のヤクザ・ストーリーをお届けする予定だ。数週間内に、Adelstein、彼のヤクザの友達といっしょに裏の世界へ入って、ゲームをやったり、コンピューターを使ったり、体の部位を切断したりという、ヤクザの普段の暮らしぶりを見てくるつもりでいる。お見逃しなく!●
ヤクザとは、伝統的価値観を奨励している人たち。これは、ある意味、なるほどなあと思いました。娯楽製品の題材にヤクザが決して少なくないのは、仁義だとか義理だとか、失われていく日本の古い価値観に郷愁を感じるせいかもしれません。
とはいいつつも。「小さなホーム・セキュリティの仕事を営んでいるだけの普通の人たち」は、要は世に言う「みかじめ料」をもらっている人たちのことだと思うのですが、それは本当に普通の人たちなのだろうかだとか。
子どもの問題を解決するためにヤクザのところへ、金を返してもらえなかったらヤクザのところへ、普通の人が本当に行くのだろうかとか。疑問果てしなく…。
取材の過程で、ボディガードになった元ヤクザの親分に親しみ、あるいは尊敬の念を抱くに至り、親分のものの見方に影響を受けている部分が出てきたとしても、変ではないかなあと率直なところ感じました。
明後日はこの記事についたコメントをお送りいたします。
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