2010年11月07日

ニューヨーク・タイムズ紙 - 日本のデフレは今 -

本日は、2010年10月17日付けのNew York Timesから。

長いうえに固いので、お時間があるときにでも。


元気だった日本、意気消沈


大阪:日本の中産階級の多くの人たち同様、 マサトもまた、世界中が羨んだ数十年前の日本の繁栄を楽しんだ一人だ。マサトはかつて中小企業の経営者だった。50万ドルの分譲マンションをもち、バケーションはハワイ、最新のメルセデスを乗り回していた。

だが、日本全体の経済とともに、彼の生活水準はゆっくりと崩れ落ちていった。まず最初は、海外旅行の回数を減らさねばならなくなり、その後、まったく行けなくなった。メルセデスはもっと安い国産モデルに変わった。去年は、分譲マンションも売り払ったのだが、……価格は、買ったときの3分の1。これは17年前に組んだローンの残金より低い価格だった。

「昔の日本は、華やかで上向きでした。でも、今はみんな暗く地味な暮らしをせざるえません」と49歳のマサトは言う。マサトはフルネームは出さないでくれと言い、理由をまだローンの残金11万ドルを返済できていないからだと話してくれた。

最近、日本ほど目を引く経済上の挫折を経験した国はほとんど見ない。
1980年代には、投機株と不動産の大きなバブルに乗り、西欧を長きにわたり支配しようと挑んだアジア最初の国だったというのに、1980年代後半〜90年代前半にかけてバブルがはじけ、日本はゆっくりと、だが長く執拗に続く下降線を辿っていった。巨額の財政赤字から脱却することも、氾濫する低利の融資金の埋め合わせをすることもできないまま、だ。

ほぼ一世代にわたりこれが続いた今、国家は低成長、そしてデフレといわれる価格のゆっくりとした下落のスパイラルに閉じ込められている。同時に、ゴジラだった国は世界経済のオマケ的な存在へとしぼんでいった。

現在、米国や他の西欧諸国は、負債と不動産バブルからなんとか復活しようともがいている。その未来の暗い予想図として日本を挙げる経済学者は増える一方だ。
連邦準備銀行(訳注:アメリカ合衆国の中央銀行制度を司る企業体)の議長、ベン・バーナンキは経済を活性化させるために、一連の型破りな新しい手段を準備している。だが、米国や他の欧州諸国では、経済が長引く低成長の時期を迎えようとしているのではないか、最悪の場合、世界大恐慌以降、日本以外では続くことがなかったデフレに直面するのではないかという不安がどんどん増大しているのだ。

経済学者の多くは、米国が日本のような経済停滞に陥ることはないといまだ自信をもっている。大きな理由は、米国の政治体制の、より卓越した対応。そして、米国における資本主義の創造的破壊に対する、より強い耐性だ。
日本の指導者たちは当初、日本が抱える問題の深刻さを否定し、雇用を作り出そうと公共事業に莫大な支出をした。だが、これは、苦痛は伴うとはいえ必要だった構造改革を先延ばしにしたにすぎないと経済学者たちは言う。

「米国は日本とはちがいます」とスタンフォード大学経済学教授、ロバート・E・ホールは語る。「米国では、人々に再び消費させ、投資させる方法をなんとか見つけられるだろうという予想がゆらいでいません」。

それでもやはり、連邦政府支出や税制赤字を減らそうという政治的圧力は大きく、経済学者たちは今、「日本化(Japanification)」の警告を出している。
つまり、消費者が消費を拒み、企業が投資を控え、銀行が金を出し惜しんだとき、需要が崩壊して日本と同じデフレの罠に陥るというのだ。
これはタチの悪い、自己強化型サイクルだ。価格がさらに下落すれば、雇用は絶え、消費者は財布の紐をさらに引き締める。企業は支出を減らし、業務拡大計画を先延ばしにしてしまうというわけだ。

「米国、英国、スペイン、アイルランド、こうした国々はすべて、日本が十数年かそこら前に通った道を今、進んでいます」と話すのは、野村證券のチーフエコノミスト、リチャード・クーだ。彼は最近、世界が日本から学ぶべき教訓を本を著した。「何百万という個人や企業が貸借対照表が沈んでいっているのを目の当たりにしています。そのため、借金をしたり消費をしたりするかわりに、債務の返済に金を充てているのです」。

米国の、ある世代にインフレが傷跡を残しているように、日本人にとってデフレは深い傷を残している。それは世代の対立を生み、悲観主義や運命論、色あせた希望という文化を作り出してしまった。

それでも、今なお、日本はいろいろな意味でいまだ繁栄する社会ではある。だが、状況はますます過酷なものになろうとしている。特に、比較的に経済の活気がある東京以外では。この状況は、米国や欧州にとっては、起こりうる未来の予兆を見せてくれるものだ。これから起ころうとしている大惨事の予報にちがいない、と。


翳りゆく活力

前に進もうという日本の力が萎えていることは、東京の街角で見ることができる。東京では、安定した職がなく伝統的な数十年にわたるローンを組めない若者や、彼らの両親が住んでいるような、よく知られた窮屈な家ですら購う金がない若者の間で、『ミニハウス(microhouse)』が人気だ。

こうしたマッチ箱サイズの家は、かろうじてSUV(スポーツ多目的車)が駐車できる大きさの土地に建てることを前提としているが、クローゼット・サイズのベッドルーム、スーツケース・サイズのクローゼット、潜水艦にきっちり納まる小さなキッチンがついた3階建てだ。

「先行きが不安なときでも、こうやれば家がもてるということなんです」。ミニハウスを販売している、東京に本社を置くゼウスの統括マネージャー、コンドウ・キミヨは言う。

40歳以下の多くの人にとって、これが、自動車からスーパーコンピューターまで、米国のあらゆる産業を破壊し尽くそうとするかのようだった、あの力強く、脅威的な1980年代の『日本株式会社』の時代からどれほどかけ離れたものなのか理解するのは難しい。
あの時代、日本の株式市場は今の4倍、円は想像もできないほど高騰した。日本企業が世界のビジネスを牛耳り、ハリウッドの映画スタジオ(ユニバーサル・スタジオやコロンビア・ピクチャーズ)や有名なゴルフ・コース(ぺブル・ビーチ)、象徴的不動産(ロックフェラー・センター)といった知名度の高い不動産を次々に食べつくしたのだ。

1991年、経済学者たちは、日本が2010年までに世界最大の経済国として米国を追い越すだろうと予想していた。事実を言えば、日本経済は今も当時と変わらない。現在の為替レートで、国内総生産(GDP)は5兆7000億ドル。同時期、米国経済は、その2倍の14兆7000億ドル。今年は、中国が日本を抜き、世界No.2の経済国となった。

中国は完全に日本を失墜させ、今、日本に頭を悩ませている有識者は米国にはほとんどいない。かつて賑わっていた米国の大学の日本語教室はガラガラだ。
以前、レーガン政権の貿易交渉担当だったクライド・V・プレストウィッツは、1980年代に米国に対する日本の脅威について書き、ワシントンに警鐘を鳴らした人物だが、彼は今、中国語を勉強中だと言い、「もう日本にはほとんど行っていません」とも話す。

この落ち込みは、日本人にとっては苦痛だ。マサトのような企業や個人たちが株式市場で何兆ドルも失い、株価は1989年のたった4分の1。にもかかわらず、不動産といえば、住宅の平均価格は1983年投じと同じなのだ。
未来はさらに暗い。日本が直面しているのは、GDPの約200%にもなる世界最大の国債だ。一方で、人口は減少し、貧困率と自殺率は上昇している。

だが、おそらく、最も顕著な影響は、日本の自信の危機だろう。わずか20年前、この国は、活力と野心に満ちた力強い国であり、傲慢なまでに誇りをもち、円を基盤としてアジアに経済の新秩序を作り出そうと切望した国だった。
だが、今、こうした高い野心は棚上げされ、疲弊と将来への不安、そして重苦しい諦めの空気が取って替わった。
日本は貝の中に引きこもろうとしているように見える。世界の舞台からゆっくりと消えていくことに甘んじているように思えるのだ。

この、今なお豊かな国家の生活水準は、ゆっくりと蝕まれている。それとともに、新しい倹約志向が日本の若い一世代に現れている。この世代は、日本の低迷とデフレしか知らない世代なのだ。彼らは、車やテレビといった高価な商品を買うことを嫌がる。アメリカに留学するものも、ぐっと少ない。

日本の元気のなさは、若者の間でもっとも目立つ。この若者たちは、彼らの先輩たちのように会社で際限なく働き続ける意欲にも、恋愛を成就させる積極性にも欠けているために、『草食系』として広く冷笑の対象になっている。多くの人は、なかば冗談だが、これが日本の出生率の低下の原因だと責める。

「日本人はかつてエコノミック・アニマルと呼ばれた時期がありました」と言うのは、化学工業の巨人、昭和電工の前・最高経営責任者、大橋光夫だ。「しかし、どこかで日本はそのアニマル・スピリットをなくしてしまった」。

日本の低迷について多くの人にインタビューをしたが、政策立案者や企業のトップから街の買い物客にいたるまで、日本人の口から出るのは、この驚くべき活力のなさについてだ。
日本が患っている問題は多い。が、中でも最も大きな問題は、急速な社会の高齢化だ。かつて豊かでダイナミックな国だった日本を、深い社会的、文化的わだちの中へ落ち込ませたのがこれであり、おそらく今日、最も不吉な日本から世界に向けた教訓だろう。

デフレの害悪は昔から、個人、企業に金を使わせる意欲を減退させることだと解説されてきた。なぜなら、価格が下落しているときに取る行動として合理的なのは、出費を抑えることだからだ。そうすれば、金の価値が増す。

だが、日本では、ほぼ1世代にわたって続いているデフレの影響が、大変に根深いものになっている。無意識のうちに、日本人の世の中の見方に影響を与えているのだ。将来への深い悲観が育ち、消費や投資を本能的に避けようという、リスクを怖がる気持ちを生んだ。これが需要を……さらに価格を押し下げている。

「新しい常識が生まれています。消費者たちが、ものを買ったり、お金を借りたりすることを非合理的と考え、馬鹿馬鹿しいとすら思っているのです」。そう話すのは、東京の早稲田大学でデフレの心理学を研究している竹村和久教授だ。


自信をなくした街

こうした影響は日本経済に及び、比較的賑やかな東京より、日本で3番目に大きな都市である大阪のような街で、よりわかりやすい。この商業都市を自負する街では、商人たちが、深刻なダメージを受けている買い物客を再び消費に走らせようと極端な行動に出ている。
が、これはおうおうにして、価格戦争の態をなしてしまい、日本のデフレ・スパイラルに餌を与えているだけという結果になっている。

缶入り飲料を10円で売る自販機があるかと思えば、50円でビールを売る店がある。そうかと思えば、最初の月の家賃がたった100円のアパートもある。
結婚式ですら安売り中だ。ディスカウントの結婚式場は600ドルで結婚式を挙げてくれる。この価格は、たった10年前の日本で、結婚式を挙げるのに必要だった標準的な価格の10分の1である。

大阪の千林商店街では、最近、商店が100円デイを催した。商店街の商品の多くを100円で提供したのだ。そのときですら、彼らは「結果はがっかりでした」と言う。

「日本人は、自分を着飾ろうという欲求すら失ってしまったようです」と、小さな衣料品店でパートで働く63歳のオカ・アキコは言う。彼女は自分の衣料品店をもっていたが、2002年に破産した。

活気のなさは、日常的ではない場所で感じられるときもある。大阪一番の歓楽街、北新地。ここは3世紀にわたって続く繁華街であり、夜ともなればネオンサインとタイトなドレスのホステスたちで溢れる。一流クラブでは、座っただけで500ドルという場所だ。

が、この15年で、ファッショナブルなクラブやラウンジの数は1200軒から480件に減った。そのかわりに、できたのが割引するバーやチェーン店のレストランだ。バーテンダーたちは、最近は常連があまりに料金を気にし、洗練度の高さを表すと長い間考えられてきた金銭に対する気前の良さもなくなったと話す。

「特別な文化が消えつつあるのかもしれません」と、バー織田の織田高央は語る。彼は、輝く金色のカウンターの向こうで完璧な職人芸のカクテルを作っている男だ。

何年も無策でいた日本だが、なにが問題なのかに気づきはじめてはいる。不満を抱え込んだ有権者たちが、戦後、事実上の独裁政権をとっていた自由民主党に決別したのだ。とはいえ、多くの日本人にとって、これはあまりにも遅すぎたかもしれない。日本はすでに、かつては生得権と考えられていた「安定した職業を楽しみ、生活水準を上げていけるという確信」をもたない若者たちをまるまる1世代生み出してしまった。

24歳になるヒガキ・ユカリは、経済状況と言えば、物価や給料が永遠に下降しつづけているかのような状態しか知らないと語る。彼女は、衣類はディスカウント・ショップで買い、昼食は自分で作り、海外旅行を控えることで、できるだけ貯金をしている。それでも、彼女は、彼女たちの世代は快適に暮らしていると話す。彼女や友人たちはいつも守りの態勢にあり、最悪の事態に備えているのだ。

「私たちはサバイバル世代なんです」とヒガキ。彼女は家具店でアルバイトとして働いている。

生活総合研究所の代表、松田久一は日本の消費者に関する本を数冊、書いている。彼は日本の20代に、「嫌消費」世代というまた違った名前をつけた。松田は、この世代が60代になるまでに、彼らの倹約の習慣は日本経済に4200億ドルの消費の損失を与えるだろうと予測している。

松田は、「世界でもこんな世代は他にないでしょう。消費が馬鹿げているって考えているのですから」と言う。

デフレはビジネスマンたちにも影響を及ぼしている。物価と利益だけが上がることなく下がり続ける経済の中で、生き延びる新しい道を作り出さねばならないのだから。

カイアミ・ヨシノリは以前は大阪の不動産業者だった。大阪では、日本の他地域と同様に、土地の価格がここ19年間、ほぼずっと下落し続けている。カイアミにとって、ビジネスは厳しいものだったと言う。実質、損失を生み出すだけとわかっている市場に買い手などほとんどいなかったし、売り手といえば、彼らの持ち家の価格以上のローンを背負っているのだから、こちらもほとんどいなかったからだ。

数年前、カイアミはこの手詰まりを打開するアイディアを思いついた。自己破産を申請することでローンを帳消しにしつつも、血縁者に物件を売ることで家には住み続けられるという、念入りで合法的な逃げ道を家主たちに指南する会社である。血縁者の場合、ローンは小さくなり、支払う金額が大きく減額されるのだ。

「再びインフレになれば、それだけでこのビジネスは不要になってしまうでしょう」とカイアミは言い、デフレの対極にある物価の上昇について語る。「私は20年間ずっとインフレが戻ってくるのを待ち続けてる気分ですよ」。

そのカイアミの客の一人が、中小企業のオーナーのマサトだった。マサトは、ベッドルームが4室あるマンションを血縁者に18万5000ドルで売却した。15年前、50万ドル強で購入した物件だ。彼は、自己破産を申請すれば、まだ銀行にある11万ドルの借金も消せるかどうかも調べていると言う。

経済学者たちは、デフレが居座りつづける一つの理由として、新しい商品を買ったり投資はせず、経費を削減して所有しているものを売り払うことで生き残りを図るほうへと、マサトのような個人や企業が向かっていることをあげる。

「デフレは、資本主義経済の成長に必要なリスク負担をなくしてしまうんです」。東京、慶應義塾大学経済学部、竹森俊平教授はそう言う。「創造的破壊が、ただの破壊的破壊になりかわってしまうということです」と。●



次回は、この記事に対するNeogafのゲーマーのかたがたのコメントをご紹介するつもりでおります。



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posted by gyanko at 12:00 | Comment(171) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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