2011年06月23日

海外記事 - 日本の「男の娘」-

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今週の日本の萌え:男の娘

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口紅、長い髪。キュートな服。こうくればたいがいは美女だが、必ずしも全員が女性である必要はない。日本では、これを「男の娘」と呼ぶ。文字通り訳せば、男娘(male daughter)だ。

発音は、「おとこのこ」あるいは「おとこのむすめ」。「男の子(おとこのこ)」(boy)の言葉遊びからきた呼び方だ。
日本の女装の歴史は長く、こうした「おとこのこ」たちは今、オタクたちが愛を注いでいる現代版だ。

「男の娘」はゲイであるとは限らない。バイセクシャルだったり、ストレートであったり、まったくセックスに興味がない場合だってあるかもしれない。性的傾向はもちろん関係はあるのだが、「男の娘」とは、着ている服のことであり、女らしさの表現のことであり、そして、オタクの文化のことだ。

が、着ている服とはいっても、「男の娘」は、これがわかれば最新流行と認められるような、オタクのファッション・ブランドというわけではない。「男の娘」は、東京やパリのファッション・ショーの舞台ではなく、アニメやマンガ、ゲームからインスピレーションを受けている。オタクたちの感性が注ぎ込まれているのだ。

2009年春、秋葉原に『NEW TYPEという「男の娘」のメイド・カフェがオープンした。『NEW TYPE』の代表、J'zK-layerは「来店するのは本当に普通の感じの人たちです」と語り、男女比は6:4だという。

平日夜の『NEW TYPE』は、PSPのゲームをマルチプレイヤーで楽しむ場所だ。PSPをもっていない客に、PSPの貸し出しも行っている。

このメイド・カフェは非常に繁盛していて、「男の娘」用衣装を扱うオンライン・ショップまで開いている。ショップには、「男の娘」を対象としたブラウスやジャケットから、ドレス、カツラ、アクセサリーまで揃っている。

女装した男の子を「男の娘」と呼ぶのがオンラインで人気になってきたのは、ここ10年のことだ。が、その何年も前から、すでにアニメやマンガは女装する男たちを描いてきた。『聖闘士星矢』の瞬もそうだし、ギャグマンガ、『ストップ!! ひばりくん!』には、しばしば女の子に間違われるきれいな男の子が登場する。


↓『聖闘士星矢』の瞬
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↓ストップ!! ひばりくん!
ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション 3

歴史的に、日本では、服装は階級とアイデンティティに関わるものだった。千年以上にわたって、「この階級なら男はこうで女はこういう色、こういう服装をするように」という、定められた政令があった。性差を服装で区別することも、日本では根強い。
……が、だからこそ、この区別をぶち破ろうという欲求があり、同時にこれを守っていこうという欲求も存在するわけだ。

確かに、矛盾はしている。
歴史から見れば、歌舞伎役者はみな男で、この伝統は今も続いている。何世紀もの間、日本の歌舞伎役者たちは、美しい女性のように装い、演じてきた。「若衆」と呼ばれる若い男性たちが女役を演じるのだ。

これは日本だけではない。シェイクスピア時代の演劇も、男性たちだけの領域だった。少年が女役をこなしたのである。


↓Edward Kynaston。17世紀、当時、風紀上みだらな場所であるという理由から女性が劇場に入れなかったため、女役を演じていた少年俳優。女性としか思えない美貌だったそうです。

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とはいえ、時代は過ぎ、英国の演劇には女性が入っていったが、歌舞伎の世界ではこれが起こらなかった。
人気のある男性役者がやはり女役を演じ、歌舞伎は相撲と同様に男性だけの領域であり続けたのだ。

相撲において、女性は土俵に上がることが許されない。これは、千年以上、続いている伝統だ。女性は不浄であり、土俵という聖域を汚すからという昔からの考え方がその理由で、こういう伝統をやめようという声もある。
が、とまれ、千年以上続いてきたものなのだ。

まあ、西欧の女性たちだって、千年前にどう扱われていたかを考えると、男のバカさかげんに国境はないということだろう。

しかし、きょうび、女性というものが霊的に不浄であると考える日本人男性を探すのは、相当に難しい。相撲の世界で伝統が残っているのは、単純に長く続いてきたからというだけの話だ。現代では、アマチュアの女性力士たちが土俵に上がることを許されている。プロの相撲の土俵に上がれないだけだ。

伝統は守っていかなくてはいけない。だからこそ、歌舞伎も男性が女役をこなしながら、全員男性で続いている。西欧化以前の日本では、女性のうなじが魅力的だとされていたが、歌舞伎役者たちは今でもしばしばうなじを見せるぐらいだ。

初期の日本文学で、女に見える若い男性が引き合いに出されることは多い。もちろん、これは西欧文学でも、いたるところで似たような表現は見られるので、日本だけのことではないだろう。

ただ、日本がユニークなのは、(訳注:歌舞伎のような)主流の文化において、性差が曖昧な状態を歓迎しておきながら、一方で同時に、(訳注:女装のような文化を)サブカルチャーの辺境へと追いやっていることだ。

日本には、女装する男性ばかりではなく、宝塚というものもある。戦前、すべて女性ばかりという宝塚歌劇団が日本中で名を馳せた。これは、男役を女性が演じる、女ばかりの歌劇団だ。
宝塚は今でも日本で人気がある。数年前には、『逆転裁判』のミュージカル版も演目にかけた。

戦後になると、日本には、女装のスーパースター、美輪明宏が登場する。美輪は、長崎で原爆をなんとか逃れた後、上京。キャバレーで歌うようになったが、その美声と美貌で映画界へ躍進を遂げる。
美輪の最も有名な役は、1968年の深作欣二監督作『黒蜥蜴』だ。これは、彼の恋人であり、ブリリアントであると同時に問題も多かった、右翼の作家、三島由紀夫の戯曲を元にしている。

美輪はかつても、そして今も、有名なクロスドレッサー(訳注:異性の服装をする人)だ。「男の娘」が最初に登場したときから、すでに美輪は存在していた。
美輪が女性の服を着ていると、呆然とするほどスタイリッシュで人目を惹く。だが、美輪自身が自分のことを「半分男で半分女」と語っているのは有名な話だ。だからこそ、明宏という男性的な名前と、美輪という女性的な名前をくっつけようと決意したという。

現在、美輪は70代なかば。堂々たる明るい黄色の髪で、彼はいまも日本のアイコン的人物であり、女装のままだ。


↓40年以上前の美輪明宏。お美しいです。

映画「黒蜥蜴」/ "Black Lizard"


日本には、ホモセクシャルを禁止するような法律はない。つまり、聖書の保守的な解釈から文化が影響を受けていない。いわゆるソドミー(訳注:聖書のソドムの罪)は非合法ではないのだ。
とはいえ、差別からの保護に関わる法律は少なく、ゲイの人々は、西欧のような受け入れられ方はしていない。

が、時代は変わりつつあり、日本は徐々にさまざまなライフスタイルがあることを以前よりずっと受け入れるようになってきている。美輪は、こうした中を超えつづけてきた人間だ。

美輪は、アニメで声優もやっている。たとえば、『ハウルの動く城』や『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール アルセウス 超克の時空へ』だ。ポテトチップのCMにまで出演している。

ある世代のドラッグクイーンや女装の人々にとって、美輪はアイドルだ。美輪より若い世代のトランス・ジェンダーのメイクアップ・アーティスト、IKKOや、女装歌手ピーターは美輪と同種だ。みな、ファッション・ブランドに意識的で、ファッショナブル。
だが、これは、「男の娘」とはちがう。秋葉原というより、浅草寄りだ。

J'zK-layerによれば、この違いは、「男の娘」が女性と見間違うような容姿になることを目的とするのに対して、伝統的な女装の人々は必ずしも女性のような容姿になる必要はなく、男性にアピールすることを目的としているからだという。「「男の娘」は、女の子にとっては夢というか、いっしょに買い物に行けるきれいなお人形なんです」。

1979年、エリザベス・クラブという女装サロンが、「女装天国」を謳い文句に東京、浅草にオープンした。ここでは、男性が女性の服を着て、メイクをすることができる。客はここでドレスアップして、他の女装の客たちとおしゃべりし、軽食を食べ、写真を撮りあう。
このエリザベスは、新宿と日暮里に支店を構えるほどに成功した。

「男の娘」はコスプレと女装の結合である。
「男の娘」が知られるようになったのは世紀の変わり目のあたりだった。この現象をまず理解したのは、マンガ家とゲーム開発者たちである。『ギルティ・ギア』には「男の娘」タイプのブリジットというキャラクターが登場する。修道女のような格好をした若い男の賞金稼ぎだ。


↓ブリジット。
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ブリジットはアイコン的キャラクターであり、女性コスプレイヤーにも男性コスプレイヤーにも人気がある。男でも女でもあるということが、ブリジットが広い層にアピールした理由だ。
「アニメやゲームのおかげで、「女性のように見えるけれど男」というキャラクターの数は倍増しました」とJ'zK-layer。「「男の娘」というキャラクターはヒロインより人気になりつつあります。「男の娘」キャラクターがゲームに登場すれば売れるという説があるぐらいです」。

コメディアンの桜塚やっくんは、ケンカっぱやそうな女学生の格好をしながらジョークを言うことでキャリアを作ってきた。数年前にインタビューしたとき、1970年代のコワモテの女学生の格好をすることにした理由を「自信がありそうな感じだから」と話していた。女の人からかわいいと言われると、いつもほめられてると感じてうれしいという。

先週から、やっくんは、日本で最も人気の動画サイト、ニコニコ動画で、「男の娘」専門の新番組に出演しはじめている。

わぁい!』のような雑誌となると、対象は「男の娘」ばかりではなく、より広い客層にこのサブカルチャーを紹介しようと試みている。『わぁい!』の創刊号では、『Cross Days』や『アッチむいて恋』といったゲームの女装キャラクターを紹介したうえに、読者がちゃんとはける大きいサイズのブルマーを付録にした。

わぁい!vol.5

去年の秋、身体的には男性である、いがらし奈波(29)がマンガ家デビューした。デビュー作は、この「男の娘」というサブカルチャーを解説しつつ、なぜ彼女が「男の娘」になったのかを語った作品だ。
(いがらしの母は著名なマンガ家で、父もまた有名な声優である。いらがしは当初、ボーイバンド(訳注:ジャニーズ)に所属していた。)

出版された作品(訳注:『わが輩は「男の娘」である! 』)では、いがらしが隠れながら女装をしていたことや、女友達からメイクをしてもらっていたことが語られている。

ナムコの『アイドルマスター ディアリースターズ』をはじめとして、「男の娘」は次々に世間に飛び出してきている。この流行は、ゆっくりとメインストリームになりつつあるのだろう。


↓『アイドルマスター ディアリースターズ』の「男の娘」、秋月涼。

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日本は、米国に比べれば、いろいろな意味でセクシャリティにオープンな国だ。そして、いろいろな意味で、今なおとても伝統的な国でもある。
トランスジェンダーの人々を差別から守る法整備がない一方で、米国などよりたやすく、女装の人々がテレビや舞台に登場したり、心地よく街を歩くことができる国なのだ。●



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posted by gyanko at 09:00 | Comment(172) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする