大笑いも、大泣きも、したくない。
気楽に読んで、いつでも気楽に読むのをやめたい。
こういう理由で、エッセイを読む人間は私だけではないのじゃないかと思います。
なかばぼんやりとしていても脈絡を追え、感情や頭を使いすぎずに読み終われるというのが、特に疲れているときは負担がなく、心地良いのです。
私が、『あずまんが大王』を観たのは、何がきっかけだったのか覚えていません。なのに、不思議なことに私の部屋には、DVDとマンガ本が全巻揃っています。そして、今でもたまに気が向くと、観ます。それはちょうど、少々疲れ気味だけれど、手持ち無沙汰な時間に、なんとなくエッセイを開いて読むのと似ています。
マンガ1巻 マンガ2巻 DVD1巻 DVD2巻
『あずまんが大王』は、とある高校を舞台に、数人の女子高生たちの日常をさらりとしたコメディ・タッチで描いたものです。彼女たちの卒業までの3年間を追ったものなので、時系列上でエピソードは繋がってはいますが、マンガもアニメもどこから見てもさほど問題ありません。
↓1分ほどの短いエピソードですので、ちょっとご覧になってみてください。(舞台は、文化祭。自作ぬいぐるみを教室前に展示したときのエピソードです。)
このエピソード。関西からの転校生、通称、大阪さんの「はい」という、したり顔の返事が妙におかしくて、疲れも忘れて、いつも機嫌が良くなってしまいます。しかも、「ハンシン」。あはははは。
『あずまんが大王』は、ときにボケ、ときにナンセンスと、小味の効いたスキットの連なりであり、特筆すべき山場はありません。けれど、それがいい。見てる人間を疲れさせず、ほどほどに楽しませ、なごませてくれます。話の作りが淡白で、味が濃くないからこそ飽きない佳作です。
ヒット作ですし、観ていらっしゃるかたも多いかとは思うのですが。
私はこのアニメを、普段あまりアニメを観ない、特に女性のかたに、ぜひ、心のお茶漬けとしてご覧いただきたいと思っています。それが、今回、このアニメを取り上げた理由でもあります。
作品全体が総じて品が良く、キャラクターの可愛らしさに過剰な演出がないあたりは、アニメに不慣れな女性のかたでも十分に違和感なく楽しめる作品だと思います。
さて、この『あずまんが大王』。日本の女子高校生の日常以外に、戦闘も魔法も恋愛もないばかりか、友情も勝利も努力も、明快な着地点すらありません。
言ってみれば、非常にローカルな身内受けのようなもの。それで海外の人は笑えるのか、というのが、海外レビューを読むにあたっての私の関心事でした。
米国アマゾンの全巻揃いのボックスセットには、全51件のカスタマー・レビューがついています。内訳は、
5つ星:38件
4つ星:10件
3つ星:3件
平均して良い評価です。
今回は、最初に紹介する、役立つと最も評価されたレビュー以外は、すべて女性によるレビューを選んでお送りしたいと思います。
彼女たちは、私と同じように楽しんでくれたんでしょうか。
まずは、26人中26人が役立つと評価したレビュー。
評価:★★★★★シンプル。それが才能。
『となりのサインフェルド』(90年代アメリカの大ヒット・コメディ)みたいに、このアニメはなんでもない話だと本当に大勢の人が言う。私には、この考え方は何か欠けている気がする。『あずまんが大王』には起承転結や壮大な目的はないかもしれないが、観ていると自分の高校時代を思い出す。
ちよは子供扱いされるのをやめてほしいと願い、ともはやることが何でもバカッぽく、そしてそれを十二分に楽しんでる。榊は自分の高すぎる身長に居心地の悪い思いをし、よみは始終、体重を気にし、大阪はしょっちゅう妙なことを言う。つまり、これは、友達といっしょに成長していく物語なんだ。
そして、キャラクターはどれも本当に好感がもてる。ときおりウザく思える人物ですら、その奇行を心底、責める気にはなれない。
このシリーズは、楽しくて、心がこもってるんだ。
ここから、以下3本は女性のよるレビューです。
評価:★★★★★ 中毒になる日常風景
『あずまんが大王』は4册の単行本を原作とするアニメです。この楽しい日常生活を描いたアニメは、メインとなる登場人物たちの高校生活を追いかけたものです。キャラクターはみんな可愛らしくて、おかしい。
ちよちゃんは、5年も飛び級した神童で、飛び級したのにまだクラスの誰よりも頭が良い。あゆむ(通称、大阪)は、授業中いつも夢を観てる、ぼーっとした女の子(彼女のニックネームは出身地にちなんでいます)’とも’と’よみ’は小学校からの幼なじみ(彼女たちが今でも友達なのは、みんなにとって謎なのだけど)。榊は、背が高くて、胸が大きくて、運動神経が良くて、猫を深く愛する、静かな少女(猫たちがどう感じてるかはとにかくとして…)。
教師たちも、変わってる。担任のゆかり先生はぶっ壊れてるし、歴史の先生(木村先生)は10代の少女に不健全な愛を抱いてる。
これはスゴいアニメであり、何度も何度も観てしまうアニメです。ストーリーに派手な展開はないけど、これはこれで特質。シンプルで健全(木村先生を覗いて)。観る価値ありです。
ここで言及されてる「木村先生」ですが、確かに奇人なんですね。女子高生大好き、という。けど、このアニメの面白いところは、それを登場する少女たちが誰もまとも相手していない。その木村先生の空回りを観るのが、また面白いんです。
評価:★★★★★ 好きになってください!
私は、ここを読んでる平均的な人たち、つまりアニメ・ファンじゃない。本当に全然観ません。でも、私のルームメイトがこのアニメにはまって、その珍事を聞いた2週間後、彼女のラップトップから、本当に偶然に出てきたものがこれだったんです。私は彼女が観ていたものの正体をそこで知って、そのときから、私の『あずまんが大王』への愛が生まれたというわけです。
このアニメ、笑えます。出てくる奇妙なキャラクターはみんな(キモい、眼鏡の男ですら)完璧だし、話の展開で、舞台が(学校から)奇妙で面白そうな場所に変わっても、どういうわけか、いつもそれがうまくはまってる。観たときは笑うのを止められなかったし、今もそう。もう通しで10回も観てるのに、最初のときみたいにまだ笑ってます。
評価:★★★★★ 事件はなにも起こらない、……傑作
高校3年間の6人の少女たちの物語と言ったら、すぐに飽きそうな話だと思うと思います。でも、『あずまんが大王』に関しては、多彩なキャラクターとちょっと変わった可笑しさがあって、がっかりのしようがありません。
まず最初に、このアニメに期待してはいけないことを2、3書きますね。1つ、あなたを釘付けにするような筋書きを期待しないでください。……そんなものないから。1つ、これはただ、6人の少女たちの3年間の高校生活について描いたものでしかありません。1つ、ファン・サービスはありません(*訳注:胸の谷間があらわ、とか、そういう男性向けのサービスのことです)。どうしてかというと、女の子たちの物語だから。まあ、あったとしても、ものすごく少ないです。
他のアニメだったらどうしようもなくなってるはずの、こういう大事な要素の欠落も、このアニメをむしろユニークで面白いものにしています。あなたは、女の子が成長して、普通の(ほとんどの場合、普通じゃないのだけど)青春を経験するのを観ていくんです。いくつかの場面では、みんなきっと自分と彼女たちを比べたりすると思います。
この素晴らしいアニメは、いつでも、そこに座って楽しめるものです。ジョークは新鮮だし、面白い。キャラクターはみんな個性的で忘れがたい。なによりも素晴らしいのは、このアニメが、その徹底した要点のなさを理解しているふうに思えることで、絶対にあなたに説教じみたことを言いません。ある場面では、十代の女の子の心を優しい視線で描き、またある場面では、他では観られない(比べる対象がない)、笑える喜劇を見せてくれます。まずは期待をせずに、このアニメの扉を開いてください。扉から出てくるとき、あなたは、思っていたよりずっとたくさんのものを抱いているでしょう。
海外の女性たちも、楽しんでくれたようです。というか、あの局地的な笑いを理解してらっしゃるんですねえ。
上に挙げたYou Tubeの動画にはファン・サブ(ファンによる字幕)がついているのですが、さすがに『通天閣』には「大阪にあるタワー」、『阪神』には「大阪と神戸」という注釈がついていました。これだけの説明で、あのボケ味が通じるのでしょう。
フジヤマもゲイシャもサムライもない平坦な日常の日本を題材に、同じ面白さを共有できるというのは、ある意味、スゴいことです。
世界は、どんどん狭くなっていますなあ…。
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(Hanshin=Demigod, or rebellious spirit)
ってやつです