2009年05月26日

仏誌Esprit - マンガはなぜ世界規模の文化製品になったのか? その6-

このたびも早速参りたいと思います。


AKIRA』は、『冷笑世代』の『UFOロボ グレンダイザー』への郷愁を煽るとともに、世代の未来の展望にも呼応していた。ダブル・パンチでは、抗いようがなかった。

日本が抱えていた失望は、フランスの若者たちよりもっともっと根が深く、そして悲劇的だった。それはオタクと呼ばれる人々の登場へと繋がっていき、この筋金入りのマンガ・ファンたちの烈しい要求に満ちた情熱は、充実した社会生活、いや、普通の生活とすら両立しない場合があった。この、ときとして病理学的社会現象にも見えた現象は、21世紀初頭になっても、なんとか社会と調和できているだけという状態だった。

だが、一方で、フランスの『冷笑世代』の心理状態があたかも半熟の子供たちの夢見がちな現実逃避に見えるとしても、西欧における失望は、再興に向かった。楽園の喪失、環境問題やテロリズムの先例のない脅威によって逆に進展を助けられ、そして、昔からの古いヨーロッパの力を借りて全体のバランスを取り戻したのだ。

マンガのドラマ性は、舶来物の魅力という以上に、受け身でいないこと、後ろ向きにならないことという素晴らしいアドバンテージを提供した。逆説的だが、それはダイナミックですらあった。


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『AKIRA』止むことのない旋風である。大友は、無意味さを絶え間なく続くアクションで覆い隠し、希望のなさをいくつかの解説(反米主義、反軍国主義、人道主義的仏教)でうまく爆弾処理した。人々にまるでそれが、支離滅裂だが魅力的なニュー・エイジのごった煮であり、DNAと人間の謎がより高位の状態へと変異するという、奇妙で新しい次元なのだと思わせたのだ(多くが(無意味さと希望のなさを押し隠すための)偽装工作だということは気にするな。それが、読者の心を次から次へと満たしていったのだから)。

黙示録(大戦)後、マンガが西欧市場にもたらした様々な形の成功が象徴しているものは、『はだしのゲン』のように絶望に陥ることを拒む若者像ではなく、気晴らしを求め、失望と力強さをちょうどよく調和させようとする若者像なのだ。


フランス市場では、黙示録(大戦)後のマンガは、大友による『沙流羅 - THE LEGEND OF MOTHER SARAH』に続く、『ドラゴンヘッド』、『最終兵器彼女』、『漂流教室注19)の成功に伴って、いよいよ暗い様相を呈してきていた。

注19)順に、ながやす巧(絵)、望月峯太郎高橋しん楳図かずお 著。英語版の出版:順に、ダークホースVIZメディアCarlsen VerlagTokyoPop


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これらのうち、『沙流羅』は、世界再興の夢さえ消滅しており、後の3作品に至っては、運命の無意味さと登場人物たちの無力さがすべてである。永遠に誰も黙示録の原因を知らず、死だけが主人公たちを待っているのだ。

しかし、こうした作品がフランスで成功したからといって、マンガ・ファンが底知れぬ絶望の中に陥っているのだと考えるべきではない。むしろ、これは、彼らが、自分流に彼らのお気に入りの風俗画の多彩な味付けを評価できる鑑定人になったことを示している。



脱工業化世代の若者の美学 (2):さらば、『鉄腕アトム


日本人の集合的記憶にとって、黙示録(大戦)とは、広島の遺産をどう捉えるかということだった。マンガにとっても、そうだった。核の地獄を生産した科学、日本人よりも巧くアメリカ人が習得した科学、そうして、すべての日本人の勇気が挫けた科学である。

ここから日本人は、彼らの世界での地位を取り戻すには、科学を習得するよりないと学んだ。科学はこうして戦後日本の正真正銘の崇拝の対象となったのである。

大人たちは戦争を試みて失敗したが、未来は彼らの子供たちの手のなかにある。科学のおかげで、子供たちはかつてより、さらに良い未来を築き上げていくだろうというわけだ。


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手塚治虫の『鉄腕アトム』は、史上最も有名なマンガであるとともに(注20、この心理の最も典型的なシリーズだろう。原子力を動力源とした小さなロボットは1952年に創られ、この「科学的な子供たち」の良い例となった。その使命は、日本を最前線として、世界の秩序を確立することであり、アトムは、世界のあらゆる街角で(そこには米国も含まれている)悪を正した。

注20)フランス、日本、アメリカの16の百科事典とマンガに関する学術論文から筆者が数えた引用数に基づく。『鉄腕アトム』は最も引用数が多いシリーズだった。


しかし、次の50年で、この科学への崇拝が変わる。同時に、黙示録(大戦)後の再興の夢もまた修正される。1960年代初頭、西欧より早く、日本は深刻な公害と闘い始めるのだ。

手塚自身、『鉄腕アトム』の20年後、『ブラック・ジャック』(英語版はVerticalから発行)を描いたときには幻滅していた。手塚の新しい主役は、奇跡さえ起こせる外科の名医というのに、社会は彼を追放する。彼は命を救い、ときには魂をも救うが、『鉄腕アトム』の読者の子供たちに約束されていたはずの未来は、人間の吝嗇さ、拝金主義、卑しさの中に葬られてしまったのだ。


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1990年代、マンガは、その世界征服の旅を始めるが、科学は邪悪で危険なものなりつつあった。マンガは、公害と遺伝子改変、あるいは死をもたらすウィルスの操作に対する、自然と超自然の力の復讐を描くこととなる 注21)。科学はすべての危険の源として登場し、人間性を破壊し、奴隷にする脅威となる。

注12)自然の復讐について:『犬神外薗昌也 著。『寄生獣岩明均 著。遺伝子の改変について:『ES惣領冬実 著。死をもたらすウィルスについて:『EDEN遠藤浩輝 著。『20世紀少年浦沢直樹 著。これらはすべてフランスのベストセラーである。しかし、『ES』と『EDEN』だけが、それぞれDel ReyDark Horseによって現在、英語に翻訳中である。


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20世紀少年(ビッグコミックス)全22巻+21世紀少年 上・下



このテーマは、黙示録(大戦)後の失望と同様に、幻滅がすべてであり、フランスのコミック界では当時、無視されたのだが、今日、公害と地球温暖化を世界中のマスコミが大きく取り扱うようになってから、海外で多くの読者を獲得している。科学は世界で初めて、日本で悪者となり、物語化され、そして今、人類すべての共通の問題となっているのだ。




戦後、広島の記憶、核と科学への崇拝。ここから始まって、公害、科学の敗北、人間への幻滅という流れと、手塚治虫の『鉄腕アトム』から『ブラック・ジャック』への変遷を重ねているのが、なるほどなあ、と。


『AKIRA』についても、その正体が癒されることのない世界に対する幻滅を描いたもの(アクションや突然変異なんたらは偽装工作)とするなら、個人的にはかなり納得できます。じゃないと、あのラストはわからないもんなあ。
世界を脅かす敵がいなくなって、はい、おしまい、って話じゃ実際はないし、かといって世界への幻滅に説得力のある答えを出すなんてそうそうできることでもない。
だから、本当のところは、結末のつけようもなかったってところなのかなあと考えたりいたしました。


このかたは大学で日本学の講義を受け持っておられるようですが、たぶん面白いんじゃないかなあ。いや、きっと面白いと思う。



次回、最終回です。



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posted by gyanko at 21:00 | Comment(1) | マンガ・アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. なんにもしらないんだな…
    鉄腕アトムは科学に傾倒しすぎる現代に警告してる作品だぞ アニメは安直となりそのテーマは崩されがちだったが、最後はアトムが異常に高熱となり爆発しかねない太陽に、アトムが冷却剤ミサイルを体張って届けるんだぞ 地球のみなさんさようならってアトムは死んでいくんだ
    Posted by あ at 2015年03月23日 13:46
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