2009年05月28日

ハリウッドで映画化される遠藤周作の『沈黙』

今年の2月あたりに、マーティン・スコセッシ監督が、遠藤周作の『沈黙』をハリウッドで映画化するというニュースが流れました。

出演は、ダニエル・デイ=ルイスベニチオ・デル・トロに交渉中とのことで、読んだ瞬間、ちょっと年とりすぎてるんじゃあ、と思いつつも、「……でもぴったり」。


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(左から、ダニエル・デイ=ルイスの『ラスト・オブ・モヒカン』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』。ベニチオ・デル・トロの『ユージュアル・サスペクツ』。『ラスト・オブ・モヒカン』は、ネイティブ・アメリカンのモヒカン族に育てられた白人青年という『ラスト サムライ』並みのアメリカン・ファンタジー設定ですが、お薦めの大活劇映画です。面白いです。)


二人の出演が決まれば、私としては、

↓ロドリゴ役:ダニエル・デイ=ルイス   ↓フェレイラ役:ベニチオ・デル・トロ

daniel_day_lewis.jpg           del_toro.jpg


のイメージなんですが、年齢考えると、逆なんだよなあ……。それとも、ベニチオ・デル・トロはガルペ役かな…。たぶん、そうだ。

ま、どちらにせよ、よほどの手違いがない限り、今から、この映画で感動する自分が見えます。
私は特別、何の宗教の信者でもないのですが、これ、映像で観たら、きっついだろうなあ…。泣くなと言うほうが無理。


映画の公開はまだまだ先でしょうけれども、今回は遠藤周作の小説『沈黙』をご紹介します。まずは、簡単にクライマックスまでのあらすじを。ネタバレがお嫌な方、すでにお読みになってる方は、茶部分を飛ばしてお読みください。


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舞台は17世紀、島原の乱後の日本。ここに、ロドリゴとガルペという二人の若いポルトガル人宣教師が、熱い信仰と使命感を胸に、はるばる苦難の海を越えてやってきます。

彼らの使命はもちろん「東洋で最もキリスト教に適している」と宣教師たちに評価され、また「死をも恐れぬ民」と言わしめた日本に布教することでしたが、同時に、日本で棄教した(転んだ)と伝えられるフェレイラ教父の真実を確かめるためでもありました。


日本に着いたロドリゴとガルペは、マカオからともに日本へ戻ってきたキチジローの手配で、隠れキリシタンの村へ匿われます。彼らは、長く宣教師に会えずにいたキリシタンたちに歓迎され、近隣の村からもキリシタンが彼らを訪ねてやってきます。重い年貢を課され、貧しくみじめな暮らしの中で牛馬のように死んでいく彼らには、キリスト教が見せる「パライソ(天国)」が唯一の救いだったのです。


ところが、キチジローの裏切りで、二人は長崎奉行所に捕らえられます。目の前で海へ放り棄てられ殉教する日本人信者の姿に耐えきれず、自らも彼らを追いかけ、殉教するガルペ。


ロドリゴはその後、牢の中で意外なほどの好待遇を受けます。不思議なことに、長崎奉行の井上も、決してロドリゴに無理な棄教を迫りません。その安楽さに「日本人は私たちが知るかぎり最も賢明な人々」というフランシスコ・ザビエルの言葉を思い出すロドリゴ。甘い罠に心動かされぬよう、気高き殉教を心に決め、拷問を待ちます。


ところが、ある夜、ロドリゴは、牢の外からの大きな鼾(イビキ)を聞きます。牢番が眠りこけているのか、その暢気な有様に失笑して、牢番を呼びつけると、やってきたのは通訳、そして、ともにいるのは、あのフェレイラでした。あの鼾をなんとかしてくれと言いかけ、ロドリゴはそこでフェレイラから意外な言葉を聞きます。

「あれは、鼾ではない。穴吊りにかけられた信徒たちの呻いている声だ」

穴吊りというのは、地面に身の丈ほどの穴を掘り、そこへ、耳の後ろに小さな穴を空けた信徒を逆さに吊り下げる拷問です。頭に溜まる血液が数滴ずつ流れ出すために、なかなか絶命せず、何日も苦しまねばなりません。

そのうえ、ロドリゴは、彼自身が棄教しない限り、たとえ苦しみに耐えきれず棄教を叫んでも、信徒たちが決して拷問から解放されることはないことを知ります。


神はなぜ、人々の苦しみを前に黙っているのか。信仰とは何なのか。
ロドリゴは果たして棄教するのか。フェレイラの棄教の本当の訳とは。

物語のクライマックスは、静かで本当に深い感動があります。




『沈黙』は、実在の宣教師をモデルにしている作品で、海外での評価も非常に高いキリスト教文学の傑作です。英訳版が初めて発行されて40年が経過した現在でも、海外の関心は高く、堅いテーマにもかかわらず、米国アマゾンのカスタマー・レビューは63件にのぼります。(日本のアマゾンのレビュー数は78件)。


また、米国Wikipediaの『沈黙』の記事によると、

『沈黙』は長編小説として谷崎潤一郎賞をとっている。また、詳細な研究の対象であり続けている。William Cavanaugh(セント・トーマス大学、神学教授)はこの小説を「苦しみを取り除いてくれるのではなく、人間とともに苦しむことを選んだ」神の1つの形を提示してるがために、「深いモラルの多義性」があるとしている。


遠藤周作のキリスト教観は、日本人としてキリスト教に向きあうために、より人間らしさを伴った「同伴者イエス」という考え方に基づいていて(これは『沈黙』の終盤でも出てきます)、これが海外では賛否を含めて、大変な問題提起となったようです。大江健三郎がノーベル文学賞をとったとき、どうして遠藤周作ではないのかという声も海外ではあったとか。


そして、もう1つ。この作品で印象的だったのは、20年の歳月を日本人とともに過ごした宣教師が、日本には真のキリスト教は根付かないと断じる場面です。

乾いた地が水を吸い込むようにどんどんキリスト教を浸透させ、信者を増やしていったことに自分はぬか喜びしていた。日本人は、なんでも自分たちに合うように変えてしまう。ローカライズの果てに似て非なるものを作り上げてしまう、と。(ここもかなり印象的な場面なので、ぜひ『沈黙』でお読みになってみてください。)


この他にも、キリスト教迫害の尖兵に立った長崎奉行井上の描き方も、ただ酷薄な迫害側としての役割ではなく、知性と穏やかさを感じさせる人間として、宣教師に対して日本と宗教を語る場面等があり、心に残ります。



次回は、遠藤周作『沈黙』の海外の評価です。


(ついでに、遠藤周作原作の映画『真夜中の招待状』をご紹介。非常に深刻なテーマにもかかわらず、かつて私が見た映画の中で最も怖い映画の1本です。筋立てもとてもよく出来ています。ひとりではなく、何人かが集まったおりにでもご覧になってみてください。↓)



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posted by gyanko at 21:00 | Comment(5) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
  1. 初めまして。

    「沈黙」ハリウッド映画化って
    驚きました〜!!
    一番の要であるキチジローは誰なのかも興味深々です
    キチジローをおろそかにすると
    映画自体コケる可能性が大きい感じしませんか。

    私もベニチオ・デル・トロがガルペ役な気がしますが
    ロドリゴをダニエル・デイ=ルイスが演じきれるか不安も。。。

    海外でも「沈黙」の評価がいいとは
    全く知りませんでした。

    Posted by fei at 2009年06月26日 19:26
  2. キチジロー、本当に誰がやるんでしょうね。重要な役なので、feiさんがおっしゃる通り、場合によっては台無し…ですよね。そのうえ、役割的に「汚れ役」なので、引き受ける人も大変そうですよね…。


    サイトを拝見させていただきました。トップページからちょっと笑ってしまいました。……そうかもしれません(笑。
    勝手にリンクさせていただきましたが、もし不都合があればご連絡ください。
    Posted by gyanko at 2009年06月26日 21:35
  3. ブログ村のトラコミュからお邪魔しました。
    少し前の記事にコメントしてしまった様でごめんなさい。

    にしても「沈黙」のあらすじは簡潔にして的確ですね。
    プロ感漂います。

    ブログ観に来てくれたんですね!
    あんな感想しか書けないでいます。
    私もリンクさせて頂きました。恐縮です。
    ありがとうございました。

    またお邪魔しま〜す(*^_^*)
    Posted by fei at 2009年06月27日 00:22
  4. 「日本人は、なんでも自分たちに合うように変えてしまう。ローカライズの果てに似て非なるものを作り上げてしまう」
    というのにすこし笑ってしまいました。
    確かに、仏教だってもはや原型とどめてませんもんね。
    神道の神が仏門に入るなんてことがある日本の宗教においては
    一神教のキリスト教が本来の意味で根付くことは不可能なんでしょうね。

    映画の方もすごく楽しみです。
    Posted by at 2009年08月17日 15:30
  5. この記事を読んでから興味が出てきて、沈黙読んでみました。
    そして遠藤氏自身が、この本は日本人受けしないだろうと仰っていてなるほどなぁと思いました。キリスト教徒のあの苦しみを理解するのは日本人には難しいのでしょうね。

    しかし傑作には違いないと思います。素晴らしい本との出会いをありがとうございました。
    Posted by at 2010年12月21日 21:14
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